日刊☆こよみのページ スクラップブック(PV , since 2008/7/8)
■西行忌に思う 今日2/16は桜と旅の歌人として知られる僧、西行の忌日。西行忌です。 西行が亡くなった日付は文治六年二月十六日であったことから、西行忌とさ れています。 ところが、昨日2/15にも「西行忌」が有ります。 これはなぜかといえば、 願はくは花の下にて春死なむ そのきさらぎの望月の頃 という西行の有名な歌によります。 出来ることなら、きさらぎ(如月・二月)の望月の頃(十五夜の頃・太陰暦 の15日頃)に桜の下で死んでゆきたいと願った西行の心を汲んで、一日繰り 上げて西行忌と考えたためです。 ◇西行の亡くなった季節 西行の無くなった日は、ほぼ願いどおり如月の望月の頃でした。 では、もう一つの願いであった「花の下にて春死なむ」はどうだったか。 日刊☆こよみのページでは何度も申し上げてきたとおり、季節と暦の一致と いうことでは、現在使われている新暦(太陽暦の一種・グレゴリオ暦)の方 がいわゆる旧暦(太陰太陽暦の一種)より優れていますから、現在使われて いる新暦の日付に西行の命日を換算して考えてみます。 旧暦の文治六年(1190年)二月十六日 → 新暦 1190/ 3/30 三月の末の日付となります。 この日付から、果たして桜が咲いていたかと考えれば、多分西行の願いどお りとなったのでは? 願いが叶っていたと考えたいですね。 ◇西行忌を西洋の暦で考えると? 前述の日付は西行の命日を現在使っている暦で換算しました。 ですが新暦=西暦と考えるとこの日付は、1190/ 3/23となってしまいます。 理由は現在使用しているいわゆる新暦、グレゴリオ暦は1582年に改暦されて 生まれたもので、西行の命日である1190年には、世界中どこにも存在してい なかった暦だからです。 もし、西行の命日をヨーロッパで起こった何かの事件と関連づけて考えるよ うな場合(そんな場合が有るかは疑問ですが)は当時使われていた暦を使う 必要がありますから、当時ヨーロッパで広く使われていたユリウス暦に変換 した3/23を使う必要があります。まあ、そうした用途は少ないでしょうけど。 ◇二月十五日のもう一つの意味 西行が死ぬとしたら二月十五日にしたいと考えた、ことには桜ばかりが関係 しているわけでは有りません。 十五夜の月の下でというのもあった? といえば、それも言えなくは無いこ とですが、「二月十五日」に限定した理由には、仏僧としての西行の思いが あったと考えられます。 二月十五日といえば、涅槃会。釈迦入滅の日です。 仏僧として死の日付を選べるとしたら、釈迦入滅の日を選びたいというのは しごく当然と言えるでしょうね。 ◇西行忌はいつ? 西行の命日は2/16。忌日が命日というのであれば2/16と言うことが正解とい うことになるでしょうが、では2/15は間違いだと言えるでしょうか? 忌日が亡き人を思い出し、偲ぶための日であるなら、命日だけが正しいとは 言えないでしょう。 西行が願った西行らしい日を忌日と考えるのもまた正 解だと思います。 桜の咲く頃の満月の日はいつも西行の忌日なのかもしれません。 忌日が複数出来てしまったということは、それだけ多くの人がそれぞれに西 行を偲んだことの現れだとも考えられます。 どれが正解ではなく、それぞれがそれぞれの日に西行のこと、桜のこと、月 のこと、釈迦のことを考える日とする。忌日や記念日なんてそんなものなの かもしれないと考えています。 本日は、二つの西行忌から思い浮かんだ話のいろいろでした。
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