日刊☆こよみのページ スクラップブック
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■西行忌に思う
今日2/16は桜と旅の歌人として知られる僧、西行の忌日。西行忌です。
西行が亡くなった日付は文治六年二月十六日であったことから、西行忌とさ
れています。
ところが、昨日2/15にも「西行忌」が有ります。
これはなぜかといえば、
願はくは花の下にて春死なむ そのきさらぎの望月の頃
という西行の有名な歌によります。
出来ることなら、きさらぎ(如月・二月)の望月の頃(十五夜の頃・太陰暦
の15日頃)に桜の下で死んでゆきたいと願った西行の心を汲んで、一日繰り
上げて西行忌と考えたためです。
◇西行の亡くなった季節
西行の無くなった日は、ほぼ願いどおり如月の望月の頃でした。
では、もう一つの願いであった「花の下にて春死なむ」はどうだったか。
日刊☆こよみのページでは何度も申し上げてきたとおり、季節と暦の一致と
いうことでは、現在使われている新暦(太陽暦の一種・グレゴリオ暦)の方
がいわゆる旧暦(太陰太陽暦の一種)より優れていますから、現在使われて
いる新暦の日付に西行の命日を換算して考えてみます。
旧暦の文治六年(1190年)二月十六日 → 新暦 1190/ 3/30
三月の末の日付となります。
この日付から、果たして桜が咲いていたかと考えれば、多分西行の願いどお
りとなったのでは? 願いが叶っていたと考えたいですね。
◇西行忌を西洋の暦で考えると?
前述の日付は西行の命日を現在使っている暦で換算しました。
ですが新暦=西暦と考えるとこの日付は、1190/ 3/23となってしまいます。
理由は現在使用しているいわゆる新暦、グレゴリオ暦は1582年に改暦されて
生まれたもので、西行の命日である1190年には、世界中どこにも存在してい
なかった暦だからです。
もし、西行の命日をヨーロッパで起こった何かの事件と関連づけて考えるよ
うな場合(そんな場合が有るかは疑問ですが)は当時使われていた暦を使う
必要がありますから、当時ヨーロッパで広く使われていたユリウス暦に変換
した3/23を使う必要があります。まあ、そうした用途は少ないでしょうけど。
◇二月十五日のもう一つの意味
西行が死ぬとしたら二月十五日にしたいと考えた、ことには桜ばかりが関係
しているわけでは有りません。
十五夜の月の下でというのもあった? といえば、それも言えなくは無いこ
とですが、「二月十五日」に限定した理由には、仏僧としての西行の思いが
あったと考えられます。
二月十五日といえば、涅槃会。釈迦入滅の日です。
仏僧として死の日付を選べるとしたら、釈迦入滅の日を選びたいというのは
しごく当然と言えるでしょうね。
◇西行忌はいつ?
西行の命日は2/16。忌日が命日というのであれば2/16と言うことが正解とい
うことになるでしょうが、では2/15は間違いだと言えるでしょうか?
忌日が亡き人を思い出し、偲ぶための日であるなら、命日だけが正しいとは
言えないでしょう。 西行が願った西行らしい日を忌日と考えるのもまた正
解だと思います。
桜の咲く頃の満月の日はいつも西行の忌日なのかもしれません。
忌日が複数出来てしまったということは、それだけ多くの人がそれぞれに西
行を偲んだことの現れだとも考えられます。
どれが正解ではなく、それぞれがそれぞれの日に西行のこと、桜のこと、月
のこと、釈迦のことを考える日とする。忌日や記念日なんてそんなものなの
かもしれないと考えています。
本日は、二つの西行忌から思い浮かんだ話のいろいろでした。
(『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、
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