日刊☆こよみのページ スクラップブック
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■今日の「お八ツ」は? お江戸の時刻(その3)
さて三回目となる「お江戸の時刻」、その1,2をまとめて一日の時刻を眺
めて、見ることにします。
その1,2の内容を思い出しながら読んでください。
◇東京(江戸)における十二時点法のと真太陽時との比較
今まで述べてきたものをまとめて、冬至の日、春分の日、夏至の日における
東京での十二時点法の各時を真太陽時で表してみました。正午を挟んでの午
前と午後との同じ呼び名の時点を比較しやすいように、時刻表示は24時間法
ではなくて、午前・午後としてみました。
冬至 九ツ ,八ツ ,七ツ ,六ツ ,五ツ ,四ツ (,九ツ)
午前 0:00, 2:11, 4:22, 6:32, 8:22,10:11(,12:00)
午後 0:00, 1:49, 3:38, 5:27, 7:38, 9:49(,12:00)
春分 九ツ ,八ツ ,七ツ ,六ツ ,五ツ ,四ツ (,九ツ)
午前 0:00, 1:48, 3:37, 5:25, 7:37, 9:48(,12:00)
午後 0:00, 2:12, 4:23, 6:35, 8:23,10:12(,12:00)
夏至 九ツ ,八ツ ,七ツ ,六ツ ,五ツ ,四ツ (,九ツ)
午前 0:00, 1:22, 2:43, 4:05, 6:43, 9:22(,12:00)
午後 0:00, 2:38, 5:17, 7:55, 9:17,10:38(,12:00)
冬至も春分も夏至も九ツは零時(12時)ですが、それ以外の時点は皆違いま
す。また、同じ日の同じ四ツであっても、午前と午後とでは全然時刻が異な
ります。
たとえば、夏至の日の午前の四ツ(昼)は 9:22 で午後の四ツ(宵)は10:38
と 1時間以上も違っています。
こういっただけだとぴんとこないかもしれませんが、アナログ時計の文字盤
の間隔が午前と午後とで変化するようなもの。これはなかなか大変です。
◇一時の季節変化はどう扱ったか?
既に説明したとおり、この夜明けや日暮れの時刻で「一時」の長さが変わっ
てしまう十二時点法では、毎日一時の長さが変わるはずなのですが、さすが
にそれでは煩雑すぎて大変なので、一時の長さは二十四節気毎に計算して、
その期間は変えずに使っていました。
これで毎日じゃなくて、約半月に一度の変更で済みますから、めでたしめで
たし、ってそれだって結構面倒な気がしますけどね。
◇「お八ツ」の話
タイトルに『今日の「お八ツ」は?』とあるのに一向にお八ツの話が出てき
ませんでした。看板に偽り有りですね。
看板を偽るつもりではなかったのですが、書いているうちにすっかりお八ツ
の話を忘れてしまっていたのでした(結局は「看板に偽りあり」には違いあ
りませんね。ごめんなさい)。
ささ、謝罪会見はこれまでとしてお八ツの話に戻ります。辞書によれば、
【御八つ】(おやつ)
(八つ時に食べることから) 午後の間食。お三時。
とあります。今日説明した十二時点法の各時の時間を見てください。八ツ時
とはいつ頃と見ると、大体午後の2〜3時頃がその時刻。
この頃になると昼食もほどよく消化されて「小腹が空いた」といった空腹感
を覚える頃なのでしょう。いつしかこの午後の間食が慣習化してそれを食べ
る時刻から「御八つ」呼ばれるようになったのでした。
え、そんなことはいわれなくても知っていたって? これは失礼。
◇十二時点法と干支
さて、今まで不定時法の十二時点法について説明してきました。
そして以前、定時法の十二辰刻法の話をしました。
まとめると、江戸時代には「九ツ、八ツ・・・」と数える不定時法と「子刻、
丑刻、寅刻・・・」と数える定時法の二つの時刻系があったのですね。まあ、
ややこしいこと。
とぼやいてみましたが、実際はそうではなかったのです。
こんなにややこしいことにならず実際は「もっとすっきりしていた」のなら
いいのですが、悲しいことに「もっとややこしかった」のです・・・。
十二時点法と十二辰刻法の二つがあったら、なんだか「混同しちゃう」気が
しますが、それは江戸の人々も同じこと。「混同」しちゃったんです。
不定時法である十二時点法もまた「九ツ、八ツ・・・」ではなく定時法の十
二辰刻法の呼び名で「子刻、丑刻・・・」と使うことがあったのです。
こうなると困ります。同じ「子刻」といっても
子刻 = 前日23時〜 1時まで ・・・ 十二辰刻法の場合
子刻 = 0時〜 2時11分まで ・・・ 十二時点法(冬至)の場合
子刻 = 0時〜 1時22分まで ・・・ 十二時点法(夏至)の場合
のように全然違います。今どっちの「子刻」の話をしているのか、それを考
えながら使わないといけません。考えれば考えるほど、お江戸の時刻は複雑
怪奇でございました。
以上で三回にわたって話してきました「お江戸の時刻」を終わります。
ちょっとわかりにくい話が多かったかも知れませんが、時代劇で時間の話が
出てきたら、今回のお江戸の時刻の話を思い出してくださいね。
◇そうだ、「大江戸時計」を作ろう?
今回の話を書くために、季節毎の十二時点法の各時刻を現在の時刻に直す計
算をしました。これが結構めんどくさい。でもめんどくさい計算は、楽しく
もあったりして。
そうだ、いっそのこと「大江戸時計」とでも言える十二時点法、十二辰刻法、
そして現在の時刻を相互に計算出来るようなページをWeb こよみのページに
作ってしまおうか・・・。
何に使えるのかって? さて、何かいい用途があるでしょうか?
いいアイデアがある方、お知らせ下さい。
反響によっては、本当に作るかも知れませんよ。
(『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、
magazine.sp@koyomi.vis.ne.jp までお願いします。)
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