日刊☆こよみのページ スクラップブック
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■一つしかないのに日本中央標準時?
今日は、日本が「標準時」を採用した記念日です。
今でこそ日本国内では共通の時刻を用いるのは当たり前になっているのです
が明治の始めからそうなっていた訳ではありません。
標準時がなぜ必要だったのか、標準時が出来る前後で何が変わったのかとい
った話については昨年書いてしまいましたのでそちらを参照して下さい。
⇒ http://koyomi8.com/doc/mlwa/200707120.htm
今日は、昨年書き忘れた話を少々いたします。
◇明治十九年(1886年)七月十二日 勅令第五十一號
(本初子午線経度計算方及標準時ノ件)
※注意:七月十二日は署名の月日。公布日は翌七月十三日。
一、英国グリニツチ天文台子午儀ノ中心ヲ経過スル子午線ヲ以テ経度ノ本初
子午線トス
一、経度ハ本初子午線ヨリ起算シ東西各百八十度ニ至リ東経ヲ正トシ西経ヲ
負トス
一、明治二十一年一月一日ヨリ東経百三十五度ノ子午線ノ時ヲ以テ本邦一般
ノ標準時ト定ム
これが日本の標準時を定めた勅令です(今でも法律として有効)。
この勅令によって明治21年から日本では標準時を使うようになりました。
これはこれに先立つ明治十七年(1884年)にアメリカが呼びかけて行われた
国際子午線会議で取り決められた決議を実現したものです。
実はこの会議が開かれた陰にはこの時代までは世界の国々は勝手な経度の基
準を使っていたこと、また時刻に関してもまちまちであって、国家ごとに使
用する時間の差が大変わかりにくい状況にあったのでした。
日本はこの会議に代表を派遣しており、この会議の決議に従うことにしたの
でした。最もこの会議に条約のような拘束力はなく、また細かな点まで決め
ていないので解釈の違いが生ずるいわゆる「グレーゾーン」が残ってしまい
ましたが、そうした細かな問題は又何れということにして今回は触れません。
まあ、斯くして日本の標準時は明石市を通る東経 135°の線を基準として決
められることになりました。
◇もう一つの標準時?
明治十九年の勅令には「標準時」の言葉がありましたが、今生き残っている
法律にはなぜか「中央標準時」という言葉が残っています。
一つしかない日本の標準時なのに、なぜわざわざ「中央標準時」なんてよん
でいるのでしょうか?
この謎は、今は日本ではなかった地域が日本だった時代があることに由来し
ます。
今は日本ではなくなった地域とは、台湾。
明治二十八年(1895年)に台湾及び澎湖列島が日本の属領となったことで、
日本の国土が西側に延び、一部は時差が 1時間を超える東経 120°の経度帯
が生まれたため、この地の生活の便を考えてもう一つの標準時、
西部標準時
が作られたのです。西部標準時が出来たため、それまでの標準時はこれと区
別するために「中央標準時」と呼ばれるようになりました。これに関係する
のが次の勅令です。
明治二十八年(1895年)十二月二十七日 勅令第百六十七號
(標準時ニ關スル件)
※注意:十二月二十七日は署名の月日。公布日は翌十二月二十八日。
第一條 帝國從來ノ標準時ハ自今之ヲ中央標準時ト稱ス
第二條 東經百二十度ノ子午線ノ時ヲ以テ臺灣及澎湖列島竝ニ八重山及宮古
列島ノ標準時ト定メ之ヲ西部標準時ト稱ス
第三條 本令ハ明治二十九年一月一日ヨリ施行ス
この勅令の第一条に「中央標準時」が第二条に「西部標準時」という二つの
標準時が登場したのです。
◇そして、また「一つだけの標準時」に
さて、一時期日本にはこの二つの標準時があった訳ですが今はありません。
これは戦後、台湾が日本から切り離されたためですね。
と思ったところがこれが違いました。西部標準時が無くなったのは台湾がま
だ日本の属領とされていた時代、昭和十二年(1937年)だったのです。
昭和十二年(1937年)九月二十四日 勅令第五二九號
第一条 帝国従来ノ標準時ハ自今之ヲ中央標準時ト称ス
第二条 削除
第三条 本令ハ明治二十九年一月一日ヨリ施行ス
附 則 (昭和一二年九月二四日勅令第五二九号)
本令ハ昭和十二年十月一日ヨリ之ヲ施行ス
これがその根拠となった勅令。
なぜ突然西部標準時が無くなったのかというとこれは、軍部の都合。
二つの標準時があると命令を出す際に混乱が生じ、軍令が行き届かないとい
う理由での西部標準時の消滅でした。
◇そして「中央標準時」だけが残った
問題はこの西部標準時が消える元になった勅令 529号は、勅令 167号の西部
標準時にかかわる部分を削除しただけでした。そのため
中央標準時
という言葉だけが残ってしまいました。
この勅令はその後修正や削除が為されておりませんので今もって法律として
効力を持っています。
日本の、一つしかないけど「中央標準時」という標準時のお話でした。
(『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、
magazine.sp@koyomi.vis.ne.jp までお願いします。)
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