日刊☆こよみのページ スクラップブック
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■春節をめぐる話
明日2009/01/26は日本では旧正月の始まり、つまり旧暦の元日にあたります。
日本では、旧正月はまだ残っているとは言え、大分影が薄くなってきました。
「旧暦を見直そう」
というかけ声を見かける(「声」だから見るではなくて、聞くかな)ことが
有りますが、これは個人や家庭、或いは狭い地域のレベルでの話としては伝
統行事の意味を考える上などでは有意義なことではあります。
ただ、これはあくまで個人や家庭といったミクロの話であって「日本」とい
った国レベルのマクロの話に拡大するのは、間違いでしょう。。
「こよみのページ」なんて言うサイトを開いているので、
「日本の暦は日本の季節にあった旧暦に戻すべきですよね」
といったメール等を頂くことが有りますが、私はそんなことを思っておりま
せんので誤解の無いように。
おっと、春節の話から逸れてしまいましたね。もとに戻しましょう。
中国ではこの旧暦の元日を「春節」と呼んで祝日としています。
中国の公的な暦は現在は日本やその他の多くの国がそうしているようにグレ
ゴリウス暦と呼ばれる太陽暦です。
中国のグレゴリウス暦への切り替えは1912年。それまで使われていた時憲暦
と呼ばれる太陰太陽暦は、この年から日本で言うところの「旧暦」となりま
した。この旧暦のことを中国では一般に「農暦」と呼んでいるようです。
◇旧暦の立場
さて、このように現在では日本も中国も太陽暦を使っており、それ以前に使
っていた太陰太陽暦は廃止され、法律から姿を消しました。
とはいっても、それまで使われてきた太陰太陽暦(いわゆる旧暦、あるいは
農暦)の計算方法自体は失われたわけでは有りませんので、勝手に旧暦の暦
を作ることは可能です。幸い、私のような一個人がそうして旧暦の暦(こよ
み)を勝手に作っても、それを禁止する法律は無いので
2009/01/25 は旧暦では師走の30日。明日は旧暦の正月です。
なんて書いても手が後ろに回ることは有りません。よかった。
とはいいながら、これはあくまでも一個人の話。
公的機関ではそう言うわけにはいきません。旧暦は法律上は正式に廃止され
た暦なので、
明日から旧暦の正月ですか?
なんていう質問を公的な機関にしたところで「お答え出来ません」というこ
とになります(「計算の上ではそう考えることが出来ます」なんていう断り
を入れたうえでなら答えてくれるかも知れませんが)。
つまり現在の日本では旧暦は誰も管理していない暦です。
すでに書いたとおり、昔決められていた計算手順、数値で計算することは出
来るので完全に好き勝手な暦、野生の暦と言うよりは、飼い主がいなくなっ
てしまった「野良(のら)の暦」とでも言いましょうか。
◇中国での農暦
中国の旧暦、俗に農暦と呼ばれる暦についても状況はほぼ日本と同じなので
すが、実は中国の農暦には一日だけ公的機関の管理を受ける日があります。
それが、農暦の元日。中国の祝日の一つである「春節」はこの日付によって
いるので、この春節が何日かを見れば、中国の公的機関が計算した農暦の一
年の始まりの月日を知ることが出来ます。
一日だけとは言え、私のような個人が勝手に計算した暦と中国という国が計
算してお墨付きを与えた暦の日付がチェック出来るのですから、中国の農暦
は日本の旧暦のような完全な野良暦ではなくて、定期的に立ち寄る管理され
た餌場を持つ半野良暦と言えるでしょう(「野良暦」とか「半野良暦」何て
言う言葉は、私しか使わない言葉です。一般的な言葉では無いのでご注意下
さい)。
この例で言う管理された餌場の管理者は、紫金山天文台という日本で言えば
国立天文台に相当するような機関です。
◇明日は「春節」でいいのかな?
日本の旧暦、中国の農暦とも新暦への改暦以前に使われた最後の太陰太陽暦
の計算方法を踏襲したものです(天体の計算理論は現在のものに置き換
えています)ので、完全に同じものでは有りません。日本は天保暦、中国は
時憲暦という違いが有ります。
ですが、天保暦と時憲暦の違いは暦法の研究でもしているならともかく、単
に日付を知るのに必要という場合にはその差は判らないと言えるくらいよく
似た暦です。
よって、日本の完全に野良の旧暦に何か問題があった場合は、お隣の半野良
の中国の農暦を見ると、「ああ、中国の公的機関はその問題をこんな風に解
決することにしたんだな」と参考にすることが出来ます。
自分が勝手に計算した旧暦について、計算に問題が無いと間接的にお墨付き
を頂くようなものです。
そして、私の計算では明日は旧暦の元日。そして中国の発表した春節の日付
は・・・明日でした。
よかったよかった。計算には間違いが無かったようですね。
◇ちょっと一言
計算が合っていてよかったと、大団円に終わりましたが、ここでちょっとよ
くある誤解について書いておこうと思います。
1.「農暦」は農業のための暦?
中国の旧暦は一般に「農暦」と呼ばれていると書きましたが、この「農暦」
という名前を
農作業の目安として作られた暦なので「農暦」と呼ばれる
といった話を書いている本が有ります。大体は旧暦こそ、自然の季節をよく
表した暦だという旧暦礼賛の内容の本によくある表現ですが、これは誤りで
す。日本でもそうですが、旧暦での行事等は都市部より田舎に色濃く残るも
のですので、
農村部(≒田舎)で使われることの多い暦 → 農暦
ということで「農暦」の名が生まれました。
もちろん「農暦」なんて言う呼び名は、中国が改暦した1912年以降に生まれ
た呼び名であって、「4000年前から使われてきた農暦」なんていう表現も、
怪しい表現と感じます。惑わされないように。
2.旧暦は季節とよくあう暦?
度々書いていますが、これもいい加減な話です。
旧暦で、今年の夏が暑いかどうか予測出来る
なんていうことを書いた本が出回っていますが、これはもう噴飯ものです。
こうした本の主張は概ね、
本来は春の始まりであるべき正月が現在の暦では冬の最中にある。
旧暦なら、正月は春の始めにあり、四季の巡りと合致している。
ということを根拠としているのですが、正月を何処におくかは太陰太陽暦と
か太陽暦といった暦の根本の計算方法とは無関係で、計算された月の何番目
を「正月にするか」と後から決められたものです。この辺は、本来暦月の順
番を示すために生まれた十二支で表した旧暦の正月が十二支の始まり「子」
ではなく「寅」であることを考えてもわかると思います。
正月は計算で作られた暦の 3番目の「寅月」に置くのがいいのではないかと
いうのは中国で太陰太陽暦が使われるようになってから、何百年(ひょっと
すると千年以上?)も経ったあとに決められたものなので、暦が季節を表し
ているというのではなくて、大体自分たちの考える季節の巡りにあうように
正月位置を調整しただけの話です。
話せば長くなるのでこの話はここで止めますが、旧暦の日付で今年の気候が
予測出来何て言うことは有りません。もしそれが可能なら私はさっさと「気
象コンサルタント」に仕事を替えますが、今のところその予定はありません。
ああ、ちょっと一言のつもりがこんなに長くなってしまった。
ごめんなさい。日曜なのでのんびりお読み下さい(ということでご勘弁を)。
(『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、
magazine.sp@koyomi.vis.ne.jp までお願いします。)
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