日刊☆こよみのページ スクラップブック
(PV , since 2008/7/8)
■旧暦の日付は誰が決めてるの?
読者のy.k さんから
> 「暦のこぼれ話」に取り上げてもらいたいことですが、
> 中国では、春節(旧正月)が国の休日に制定されているので、旧暦の
> 暦の制定、管理も国家でなされていると聞いています。
> 日本では、旧暦は国の法律に関係しないので、国家では関与していない
> そうですが、それでは、どこが誰が、旧暦の日取り等を決めて、発信して
> いるのか「こぼれ話」で取り上げて、教えてください。
というメールを頂きました。
ということで、本日は現在の日本で誰が旧暦の日付を決めているのかという
話しをしましょう。
◇お隣中国の事情
お隣中国も現在は日本と同じくグレゴリオ暦を使っています。グレゴリオ暦
への切り替えは1912年。この切り替え以前に使われていたのは時憲暦という
太陰太陽暦でした。時憲暦はこの改暦で旧暦となったわけです(中国では、
「農暦」と呼ぶようです)。
ここまでの事情は日本と大変良く似ています。
こうして旧暦となった時憲暦ですが、中国ではこの旧暦が現在でもわずかな
がらその痕跡を暦の上に残しています。それがy.k さんのメールにもあった、
「春節」という祝日です。
春節は日本で言えば旧正月(の元日)。今でも中国では暦の元日以上に重要
な年の初めの行事として祝われており、実質的な正月の役割を果たしていま
す。この旧暦の元日を祝う日が現在の正式な暦の中に祝日として存在してい
ますから、この日付を決定する公的な機関が存在しています。
この計算をしているところは紫金山天文台というところで、日本で言えば国
立天文台に当たる公的機関です。そしてその計算結果の旧元日の日付を中国
政府が正式に認めて「春節」という祝日の日付を発表するわけです。
◇日本の事情
さて、では日本ではどうかというと明治 6年の改暦によってそれまで使われ
ていた天保暦は旧暦となり、中国の春節のような痕跡すらも現行の暦には残
っていません。完全に「旧い暦」となってしまったわけです。
現在日本の公的機関は、旧暦についてはまったく関与しておりません。もち
ろん計算自体が出来ないわけではありませんが、公式に
「今年の旧暦の元日は×月○日です」
と発表することはありません。
日本には、旧暦を管理する公的な機関など無いのです。
◇官暦と私暦
昔から勝手に作られる暦というのはあり、これを「私暦」と呼びます。これ
に対して、一国の政府といった公的な機関が認めた暦を「官暦」と呼びます。
暦は計算によって作られる産物ではありますが、同時に社会生活を規定する
基本的な約束事の一つでもあります。社会生活において「×月○日」と云っ
たときに、これに当たる日が「私の暦とあなたの暦では違う」などというこ
とがあっては困ります。
たとえ「春分の日」に本当に太陽が春分点を通過しなかったとしても(今の
ところそうしたことは起こったことがありませんが)、それ自体が社会生活
にどれだけ影響を与えるかといえば、多分大した影響はないと思います。し
かし、使う人毎に使う暦の日付が異なっては大変です。
思うに「官暦」の役割の最大のものは、
みんなが同じ暦、日付を用いていることを保証すること
だと思います。極端な言い方をすれば官暦を作る上で仮に間違いがあったと
しても、みんな間違った同じ暦を使う限りは使う人によって日付が異なるな
どということは無いわけです。現にというか、昔の暦には計算結果どおりで
はなく、人為的に改変を加えた「官暦」が幾らもありました。
◇いわゆる旧暦は「私暦」
さて現在日本でいわゆる「旧暦」として使われているは公的には誰も管理し
ていない「私暦」でしかありません。では誰がこの暦の日付を決定している
のかというと・・・
「私暦」ですから、勝手に作っています。
が答えです。こよみのページでも勝手に計算して表示しています。
そんなことで大丈夫かと云われそうですが、まあ何とか大丈夫。理由はいわ
ゆる旧暦には、「天保暦」というお手本があって、その計算方法が分かって
いますから、この計算方法を守ってきちんと計算すれば、答えが大きく異な
るということはほとんどありません。
みんなが勝手に計算しても答えが同じなら何も問題にならないわけです。た
だし、それは「天保暦」の計算方法の中で全ての問題が解決出来ればという
条件付の「問題なし」ですが。
ここ当分は計算結果に差が生じることは無いので心配要りませんが、いつか
は「天保暦の取り決めの範囲」では解決出来ない年もやってきます。
一番近いその年は2033年。
この年は天保暦の取り決めでは解決出来ない例外が発生するため、この年に
なると、違った日付の何種類もの旧暦が作られる可能性があります。
誰も「正しい」とは言えないこの日本の旧暦事情、2033年にはどうなってい
るでしょうね?
※関連記事(興味が有ればこちらもお読み下さい)
・春節をめぐる話 ( http://koyomi8.com/doc/mlwa/200901250.htm )
・旧暦の2033年問題 ( http://koyomi8.com/reki_doc/doc_0195.htm )
(『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、
magazine.std@koyomi.vis.ne.jp までお願いします。)
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