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■旧暦は天保暦ですか?
今週は旧暦にまつわる話を幾つか紹介しましたので、本日も旧暦にまつわる
話です。本日はちょっと「斜め」から旧暦を眺めてみます。
◇旧暦とは
【旧暦】(きゅうれき)
1.旧制のこよみ。古い暦法。
2.(明治維新前に使用したからいう)太陰太陽暦の通称。
対義語→新暦
《広辞苑・第五版より》
はい、以上です。では本日の暦のこぼれ話はこれまで。
・・・というわけにはいかないでしょうね。
◇本来(狭義)の旧暦
広辞苑の 1の意味、「旧制のこよみ。古い暦法」が旧暦という言葉本来の意
味です。
明治改暦で現在の暦(新暦)が使われるようになりましたから、それ以前に
施行されていた暦、天保暦は「旧暦」となりました。
ですから、本来の意味で云えば
旧暦は天保暦
と云うことになります。
さて、改暦が起こるとその後の暦が新暦、それ以前の暦が旧暦となりますと、
江戸時代にも何度も改暦がありましたので、それぞれに「新暦と旧暦」が出
来たはずです。
江戸時代には、宣明暦、貞享暦、宝暦暦、寛政暦、天保暦という暦が使われ
ましたから、 4度の改暦が行われたことになり、天保暦にとってはそれ以前
に使われていた寛政暦は旧暦ですし、寛政暦から見れば宝暦暦は旧暦という
ことになります。
◇現在のいわゆる旧暦
さて、現在も伝統的な年中行事の日取りや吉凶判断などに「旧暦の日付」が
使われることがあります。ここで云うところの「旧暦」は広辞苑の説明の 2、
(明治維新前に使用したからいう)太陰太陽暦の通称
に近い意味で使われています。
後で述べようと思いますが、現在一般に使われている「旧暦」という言葉は、
実体がはっきりせず、とらえどころがないものなので、私は
いわゆる旧暦とよばれる暦
と断って使います(まあ、面倒なので「いわゆる」の部分は省略してしまう
ことも多いのですが、その辺はご容赦願いたい)。
前述の狭義の意味で言えば、現在の新暦に対する旧暦は天保暦ですが、日本
に暦が伝来した 7世紀末から明治の始めまでの約1200年間に使われて来た暦
は全て「太陰太陽暦」に分類される暦で、細かな違いはあるものの、日常の
使用の上ではそれぞれの違いは気が付かないほど小さいものなので、それら
の古い暦法全部をひっくるめて、
旧暦は太陰太陽暦の通称
ととらえることも出来るわけです。
さて、現在の「いわゆる旧暦」ですが、その計算の方法などからするとやは
り「太陰太陽暦」に分類される暦ですので、太陰太陽暦の通称としての旧暦
という意味では、確かに「旧暦」です。
◇「いわゆる旧暦」は天保暦か?
明治改暦で目出度く旧暦の仲間入りした天保暦ですが、現在私たちが「旧暦」
として使っている「いわゆる旧暦」は果たして天保暦でしょうか?
その答えは、「否」です。
改暦とは暦法を変えることですが、暦法とは単に日付の記された一覧表(カ
レンダー)を指すわけではなくて、暦計算に必要な様々な天文定数、計算理
論、計算に用いる各種の数表などによって成り立つもので、その暦法に従っ
て厳密に計算したものが「暦」となります。
ですから、たまたま最終的に出来上がった暦の日付が同じだからと云って、
それが同じ暦法によって計算されたものだと云うわけではありません。
江戸時代に何度かあった改暦ですが、この改暦の前後で暦の日付が変わった
のかというと、ほとんどの場合、新旧の暦での差異は無いか、ごくわずかな
違いでしかなかったのです。それでも天文定数や計算方式を変えたので、改
暦となされたわけです。
こうしたきちんとした意味から考えると現在の「いわゆる旧暦」を天保暦だ
とはとても云えません。
「いわゆる旧暦」の計算は現代の天文定数を用い、計算に用いられる理論も
天保暦のものとは違っています。一日の長さも異なれば、一日の始めとされ
る正子(真夜中の零時)の瞬間という基本の基本も異なります。
いわゆる旧暦と天保暦で同じものはといえば二十四節気の定義や、閏月を入
れる規則くらいのもの。
「いわゆる旧暦」は天保暦を元にはしていますが、いつの間にか有耶無耶の
うちに何度も改暦されてしまった暦なのです。
◇正しい旧暦の日付はどれ?
明治改暦以前の本当の旧暦時代の日付については、「正しい日付」というも
のが存在します。正式に認められた暦法があって、それによって計算した結
果ですから、計算を検証すれば正しいか間違いかを検証出来るからです。
現在、「いわゆる旧暦の日付」は「○○易断△△暦」などという本や、こよ
みのページの「新暦と旧暦」のページなどで知ることが出来ます。ですがも
しそうした日付がAとBのように異なっていたとしたとき、
Aは正しく、Bは間違い
と判定することは出来るでしょうか?
結論から云えば、こうした判定を下すことは出来ません。なぜなら現在のい
わゆる旧暦には「正しい暦法」が存在しないからです。
天保暦を元にしているとは云っても、計算に用いた天文定数はどんなものを
使用したのか、置閏法の例外についてはどのような対処を行うかということ
は「いわゆる旧暦」を計算した人ごとに異なるわけですから、結果が違うこ
とだってあるわけです(計算間違いなんて云うのは論外ですけれど)。
ではどこか公的な機関が「旧暦の正しい暦法」を定めればいいじゃないかと
おっしゃる方がいるのですけれど、これは無理な相談。なんと云っても法律
ですでに廃止した暦を公的機関が管理するはずが無い(出来ない)のです。
「正しい暦法」と認められるものがないいわゆる旧暦はどこまでいっても
天保暦もどきのいわゆる旧暦
の域を出ることが出来ません。
「旧暦は天保暦ですか?」とたずねられたら、
『明治改暦前の暦という意味では旧暦は天保暦です。
現在のいわゆる旧暦がという意味では、天保暦ではありません。』
と答えるべきだと思うのですが、多分こんなことを答えたら「???」とい
う顔をされるだけでしょうね。
(『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、
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