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■旧正月は三番目の月?
本日(2011/01/22)は新暦では正月の終わりですが、旧暦まだ師走 (12/19)
です。旧暦ではまだ師走ということでもうすぐやってくる旧正月の話をする
ことにします。
◇旧正月は寅の月
旧暦の正月は立春に近い位置に置かれており、月を表す十二支では寅の
月となります。
いきなり何かと思われるかもしれませんが、唐突な感じを忘れて読んで頂け
れば内容的には正しい話です。
本日は大寒を過ぎたばかりですから、あと半月ほどで立春となります。旧正
月は立春に近い位置にあるわけですから、旧正月も間もなくということにな
ります(ちなみに2011年の旧正月元日は立春の2/4 の前日、2/3 です)。
◇十二支と旧暦月
既にこのコーナーで干支(えと)の話をしましたが、その中で説明したとお
り、干支はそれを構成する十干も十二支もともに順番を表す数詞の一つでし
た。十二支についていえば元々暦の月の順番を表す特別な記号(数詞)とし
て生まれたものでした。現在の旧暦(変な表現ですけれど)では正月は「建
寅月」とよばれます。これは寅の月の意味で、十二支の順に数えた寅の順番
の月ということを意味します。
ちょっと余談になりますが、建寅月の「建」は「おざす」とも読みます。北
天に一年中見えている北斗七星は昔の中国では時を司る重要な星座と考えら
れており、北斗七星の「柄」に当たる部分がどの方向を向いているかによっ
て、その季節を知ったともいわれます。
その柄がどちらを向いているかを「建(おざす)」と呼びました。この方式
によると旧正月の時期は、「寅の方位」に北斗七星の柄が向くため
寅の方位におざす月 ⇒ 建寅月
となります。と、余談はここまで。
◇正月なのに十二支の順番は三番目
さて、一般常識的に考えてなんだか変な感じがしませんか?
だって、寅は十二支の 3番目。それが正月ですよ? 普通に考えたら、年の
始めを示す正月は十二支の最初である「子の月」になってしかるべきではな
いでしょうか。
では十二支の最初である「子」の月はといえば、旧暦では建子月は十一月。
正月より 2ヶ月早い月を表しています。
さてここでもう一つ。
旧暦時代(日本で太陰太陽暦が正式な暦だった時代)、作暦はまず前年
の冬至を含む月である十一月を決定することからはじまった。
これも正しい話。さてだんだんと判ってきましたか。
日本や中国で使われて来た太陰太陽暦の特長の一つとして一年の始め(正月)
を立春前後に置いていたことをあげる方がいらっしゃるのですが、そうと決
まったものでは無かったのです。
そして、現在の旧正月が寅の月であることや、作暦の開始が前年の十一月
(子の月)の計算からはじまるという理由を考えると、
現在の旧暦十一月(建子月)を正月としていた時代があった
ということが朧気に判ってきます。ではその時代は何時かというと、それは
十二支を暦の順番を表す数詞として使い始めた頃、つまり中国の周王朝がそ
うした時代だったわけです。
◇三種類の「正月」・・・三正
周王朝の暦は冬至を含む月を「正月」として、年の始めと考えていました。
ですから周王朝の末期に暦月の順番を示すために生まれた十二支は周王朝の
年の始めの月(正月)から順に「子丑寅卯・・・」と割り振られました。
また、暦作成もまずは「正月」に当たる「建子月」を求めるところから計算
がはじまったわけです。至極もっとも。
そしてこの「子の月」を正月とする暦は周王朝の暦でしたから、周正(しゅ
うせい)の暦と呼ばれるようになりました。
中国では、古代の三つの王朝、夏・殷・周はそれぞれ違った正月を採用して
いたと考えそれぞれを、
夏正(建寅月が正月)
殷正(建丑月が正月)
周正(建子月が正月)
と考えました(三つまとめて「三正」という)。現在の旧暦は建寅月に正月
をおきましたから「夏正の暦」ということが出来ます。
◇「夏正」の暦の勝利?
漢の時代以後の暦は一部の例外はありましたがそのほとんどが夏正の暦を標
準とするようになり現在に至ります。
約二千年もの長い間ずっと、十二支の三番目の寅の月、建寅月を正月とする
夏正の暦を使い続けていましたから、いつしか「太陰太陽暦は立春付近に正
月をおく暦」だと誤解されるに至ったわけで、太陰太陽暦には正月を建寅月
におかなければならない理由があるわけではないのです。
そして漢王朝の暦の正月が現在の位置に決められても、十二支によってあら
わされる暦月の順番は周代に決められた時からの連続性を保ったため、正月
が十二支の 3番目に当たる寅の月(建寅月)となってしまったのでした。
旧正月が十二支の三番目の寅の月になっている理由には、暦自身がたどった
歴史があったのでした。
(『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、
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