こよみのぺーじ 日刊☆こよみのページ スクラップブック(PV , since 2008/7/8)
■方塞がり(かたふたがり)と方違え(かたたがえ)
 本日は久々に暦注の話です。
 陰陽師が高度な技術を使う技術者、あるいは科学者と考えられていた平安の
 昔には、日によって、あるいは月や年によって、そちらに向かって行っては
 いけない方角というものがあると考えられていました。

◇塞がり(ふたがり)
 この方角を「塞がり」とか「方塞がり」と呼びました。
 現在でも、どうにもこうにも打開策が見つからない問題に直面したときなど
 に

   「いやぁ、八方塞がりだ」

 なんて云うことがありますが、この「八方塞がり」の塞がりは、その進んで
 はいけない方角のことです。八方は全部の方角ということなので、この場合
 は、どこにも出口なしといった意味となり、お手上げの状態を表す言葉にな
 ったわけです。

 暦に関係する迷信には沢山の神様が登場します。神様なので人間にはない様
 々なお力をお持ちのようです。この様々な力を私たちに望ましい形で使って
 くださるなら、私たち人間も幸せなのですが、困ったことに神様の力は必ず
 しも、佳いことばかりに使われるわけではなくて、禍(わざわい)としても
 私たちに降りかかることがあります。

 神様の気に入るような行いをすれば「吉」ですが、気に入らないことをする
 と「凶」となるといった具合です。しかも暦に登場する神様の多くは気むず
 かしいらしく、人間の行いに対してその力を「吉」で応えるより「凶」で応
 えることの方が多いので、人間は神様の機嫌を損なわないように注意して暮
 らさなければ禍が降りかかると考えられました。

 神様の機嫌を損なう第一の行動は、その神様のいらっしゃる方角に向かうこ
 と、あるいはその方角に向かって不浄な事を行うことがあります。
 神様も、いきなりその居場所に人が踏み込んできたら機嫌が悪くなる。この
 辺は人間と同じですが、人間と違うのは不機嫌の原因を作ったものに禍を下
 す力があることですね。

 機嫌を損なっちゃいけない神様は、既に述べたように沢山いらっしゃるので
 すが、その中でも要注意の神様としては十二神将や金神などがあります。

◇方違え
 神様の機嫌を損なって禍が下らないようにするためには人間は、気の短い危
 ない神様の居場所を心得ていて、その方角には行かないといった配慮をする
 ことが必要になります。

 とはいえ、何かの用事で南に行かなければいけないとしてその方角が塞がっ
 ていたら、「神様が怒るのであの用事はキャンセルします」と云うわけには
 なかなかいきません(自分が行きたくないときに言い訳に使う手はあります
 が)。ではどうするか?
 ここで登場するのが「方違え」です。

 方違えの原理はというと

  南に行きたいけど、南は塞がっているから、一度東に向かって、行きた
  い方角が、南西に見えるあたりから再出発する。

 というもの。この塞がりや方違えを真剣に信じていた平安時代の貴族は、誰
 かの家を訪ねる場合でも、その誰かの家の方角が悪いと、一度違う方角にあ
 る別の誰かの家に出かけて、泊まって(時には何日も・・・)から本来の目
 的の家に向かうという方違えを行っていました。

 「方違えのために泊めてくださいね」なんて、いきなり用もない人がやって
 きて泊まっていくなんて、来られた方はたまりませんね(当時は、お互い様
 だったから仕方ないとあきらめたのかな?)。

 平安時代の貴族様なら、まあこんなのんびりした方違えも出来たのでしょう
 が、だれでもこんなのんびりしたことが出来るわけではありませんので、時
 代が下がってくるとだんだんと方違えも簡略化され、

  泊まらないといけない → 行くだけでいい → いったふりだけでいい

 となっていったようです。
 そのうちに、「いったふり」さえも忘れてしまって、それでもたいした禍が
 起きなかったと気付く人が増えたからか(この辺はずぼらな私の勝手な想像)
 方違えなど信じている人はほとんどいなくなり、塞がりも方違えも古きよき
 時代(?)の迷信となっていきました。

◇現代でも気になる人が・・・
 こよみのページを開いてから、

  ○○の方向に引っ越そうと思うのですが、方角が悪いと言われました。
  どうしたらよいでしょうか?

 といった質問をいただくようになりました。
 その方角に向かうと機嫌の悪くなる神様がどなたかなんて、気になさってい
 る方もよくはご存じないと思うのですが、その神様の機嫌を損なったときに
 下される禍という迷信だけは、現代にもまだ生き残っているんですね。
 私にとっては、こうした事実の方が神の禍が下ること以上の驚きです。
 迷信ですからね、気にしないことが一番ですよ。

  (『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、
   magazine.std@koyomi.vis.ne.jp までお願いします。)
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