こよみのぺーじ 日刊☆こよみのページ スクラップブック(PV , since 2008/7/8)
■織り姫星と彦星の間の距離は?
 昨日は、旧暦の七月七日ということで、七夕の話を書いてみましたが、本日
 はその余勢を駆って(?)、織り姫と彦星を隔てる距離について書いてみま
 しょう。
 ただし、織り姫と彦星の距離といっても

  織り姫(ヴェガ:こと座のα星)  ・・・地球から25.0光年
  彦星 (アルタイル:わし座のα星)・・・地球から16.7光年

 とかいう話ではなく、地球上にその位置を置き換えて距離を測ったらという
 話をしてみます。

◇星の真下の位置
 昔々GPS 衛星もグロナス衛星もなかった頃(ついでにその全世代のNNSS衛星
 やオメガやロランCなんて云う電波航法も使えなかった頃)、島影も見えな
 いような、大海原のまっただ中の位置は、空に昇る太陽や星の水平線からの
 高度を測って計算によって割り出す他なかったのでした。

 このように自分の位置を測るために天体の位置を測ること、あるいは、それ
 によって位置を割り出す方法を「天測(てんそく)」とか「天測法」と云い
 ます。この天測によって船や飛行機を運航させる航法を「天文航法」と云い
 ます。

 天測の原理は案外簡単です。
 地球の中心と星を結んだ直線を考えると、この直線は、何処か1点で地球の
 表面と交わります(地球の裏側も考えれば2点ですが、とりあえず裏側は考
 えない)。

 この交わった点で星を見ると、その星は真上に見えるはずです(直線の反対
 側、地球の中心が真下ですから)。逆に云えば、ある瞬間にある星が真上に
 見える地点は地球上に1カ所しかないことになります。
 天測による地球上の位置の割り出しは、ある瞬間に星が真上に見える地点を
 求めることがその第一歩です。

 もちろんこれだけでは、星が真上に見える1点しか求まらないので実用にな
 りませんから、さらに一工夫して、2つ以上の天体の位置を測って自分の位
 置を求めるのですが、これ以上の天測の話は長くなりますので、今回は省略
 いたします(いつか、また話の種に使おうという魂胆もあり?)。

◇織り姫星と彦星の地球上の距離は?
 話を織り姫星と彦星の話に戻して、ある瞬間に織り姫星が真上に見える地球
 上の地点と彦星が真上に見える地点の距離を考えてみます。
 織り姫星であるベガと、彦星、アルタイルの位置は、星の位置を表す天球の
 赤道座標で

  ベガ    赤経 18h36m56.3s (= 279°14′05″), 赤緯 +38°47′01″
  アルタイル 赤経 19h50m47.0s (= 297°41′45″), 赤緯 +08°52′06″
   ※2000.0分点の位置(今回はこのまま使います)

 となります。
 星が真上に見える地球上の経緯度は、緯度に関しては星の赤緯をそのまま緯
 度と読み替えることが出来ます。
 経度については、地球は自転するので時々刻々と変化してしまうのですが、
 今回の計算では、経度の差さえわかればよいので、こちらもそのまま経度に
 置き換えて考えても問題ありません。

 つまり、織り姫星と彦星の地球上の距離は、

  経度  279°14′05″, 緯度 +38°47′01″(米国ウェストバージニア州)
  経度  297°41′45″, 緯度 +08°52′06″(ベネズエラ)

 の2地点の距離と考えられます。()は、この経緯度を地図に落とした場所
 です(間には天の川ならぬ、カリブ海があります。一応地続きですが)。
 この2点の球面上の距離 xは、球面三角形を解くことで

  x = 34°11′42″

 と求めることが出来ます。地球を半径6378kmの球たど考えるとこの角度は、
 3806kmに相当します。

 星と星の「何光年」なんて云う距離に比べたら、地球上に置き換えた織り姫
 星と彦星の距離はたいしたことはないですが、人間のレベルで考えると、こ
 の3806kmはまだまだ遠い。

 一晩の間に、織り姫に会いに行くためには、彦星は牛車じゃなくて自家用ジ
 ェット機が必要なようです。
 遠距離恋愛には苦労がつきものなんですね・・・

 以上、本日は旧暦の七夕の翌日ということで思いついた、ちょっとおかしな
 暦のこぼれ話でした。

  (『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、
   magazine.std@koyomi.vis.ne.jp までお願いします。)
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