こよみのぺーじ 日刊☆こよみのページ スクラップブック(PV , since 2008/7/8)
■孔明六曜星(こうめいりくようせい)と「孔明」
 『○○○○・△△△△ 共著』

 こんな具合に本の著者の箇所に「共著」と有る場合があります。
 ある日、読み終えた本の著者の欄を見るとこの本も共著となっていました。
 その時にふと感じたのは、

  さて、○○○○先生はこの本のどこかを書いたのだろうか?

 ということでした。
 ○○○○先生の本は、他にも何冊も読んでいたのですが、どうも先生の他の
 本とは雰囲気が違うという感じを受けました。本当は△△△△さんが一人で
 書いた本だけど、権威付けに○○○○先生の名前を加えさせていただいたと
 いう感じが。学術論文なんかだと、共著者として指導していただいた偉い先
 生の名前を最後に書き加えることは、よくあります。その先生がその論文に
 ついて本当に指導したかどうかとは関係なく。

 一般の書籍についてもそうした慣習があるのかどうかはわかりませんが、世
 間によく知られた先生の名前を加えていただけると、どこの馬の骨か解らな
 い(おっと、いい過ぎ?)無名の者が書いた本というより、信頼感が増すの
 は確か。世の中、「権威」には弱いですからね。

 「権威」に弱い世の中では、こんな具合に中身とはあんまり関係のない権威
 付けが行われることがあります。
 本日採り上げた、「孔明六曜星」もそうして出来た名前の一つです。

◇孔明六曜星とは?
 孔明六曜星などと云うと、何か特別なもののように思えますが、何のことは
 ない、よく見かける六曜(六曜星、または六輝ともいう。大安や仏滅という
 あれです)のことです。

 では、権威付けに付けられた頭の「孔明」は何かというと、皆さんもよくご
 存じの、三国志に登場する諸葛亮の字(あざな)の孔明です。「諸葛孔明」
 という呼び方の方が解りやすいかもしれません。

◇孔明六曜と諸葛孔明の関係
 六曜の元は儀鳳暦(ぎほうれき)を作った唐の李淳風が作った六壬時課(り
 くじんじか)という時刻占いといわれています。

 ですから李淳風の生きた唐の時代よりずっと前の時代である魏・蜀・呉三国
 時代に作られたはずはないのですが、過去の偉人が作った物といった方が箔
 がつくとしてこんな名前を付けて呼ぶ者が出たのです。

 こうした話は日本でもよくあることで、暦と天文の両道に達した学者であり
 役人であった安倍清明が、いつの間にか占いや式神を操る超人のように考え
 られるようになったようなもの。
 諸葛孔明も中国でそうした神通力をもった人物と考えられるようになった結
 果こうした権威付に使われるようになったものと思われます。

◇ついでに
 李淳風の考えた六壬時課は時刻の占い。まず占う日の最初の六曜(こう呼ん
 でよいものか疑問ですが、ここでは仮にこう呼ぶことにしておきます)を決
 め、それをその日の子刻に割り振り、そこから、

  子→丑→寅・・・

 の時刻に順に六曜を配して「時刻の吉凶を判断した」のです。

 一刻(現在でいえば2時間に相当)ごとにこんなことをしていては、忙しな
 くて大変だったのか、そのうちに最初に日の子刻に配する六曜を求める部分
 だけを取り出して日の吉凶占いに流用したのが、現在の六曜の元である小六
 壬。

 もっとも、中国の小六壬はその年の年数の陰陽によって基点となると六曜を
 変えるなどの仕組みがありましたが、日本の六曜にはこうした仕組みはなく
 単純に旧暦の月日だけで決まるものになっています。日本の六曜は既に小六
 壬とも異なるものとなってしまっています。

 元々が、大した意味があるとは思えない占いから発し、更にそれが簡略化さ
 れ、更に更に省略されてグチャグチャになったものが、現在の日本で有難が
 られている六曜ということになります。

 箔をつけるために「孔明六曜星」なんて言ったところで、内容がこれじゃ、
 あまり権威を感じることはできませんね・・・といいながら、冠婚葬祭とも
 なると、振り回される人が多いのも事実ですけど。

◇おまけ
 ご存じのこととは思いながら、現在の日本の六曜の求め方ですが、これは至
 って簡単。

  (旧暦月 + 旧暦日) ÷ 6 の余りの数

 のあまりの数で次のように決まります。

  0:大安 1:赤口 2:先勝 3:友引 4:先負 5:仏滅

 です。ホントに「至って簡単」な仕組みでした。
 こんな簡単な仕組みで運の良し悪しが解ったら、誰も苦労はしないのに。
 孔明先生もこんなことに名前を使われたら、いい迷惑だと思っているのじゃ
 ないでしょうか。

 一つ自信を持って私に言えることは、孔明六曜星とその名を使われた諸葛亮
 は「大安の日を選んで」北伐の軍を発したなんてことはなかったはずという
 ことです。

  (『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、
   magazine.std@koyomi.vis.ne.jp までお願いします。)
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