日刊☆こよみのページ スクラップブック
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■暦注と節切の暦
「節切」は「せつぎり」と読みます。
先月のことですが、Web こよみのページの
暦注計算 (http://koyomi8.com/sub/rekicyuu.htm)
の表示について、質問を頂きました。質問は次のような内容でした。
> 2月の辰の日は「受死日」のはずですが、2月辰の日に当たる2020/2/19は
> こよみのページの暦注計算では受死日になっていません。
> どうしてですか。
この暦注計算のページには、このページでの計算内容を簡単に説明した解説
のページが用意しています。そこにはこの「受死日」について
・受死日 (じゅしにち)
別名「黒日(くろび)」「●」と書かれることが多い。
大悪日。最悪の日とされる。葬式は行っても良いが、それ以外は何をするに
も悪い日という。選日法は、節月と日の十二支による。
と書いています。問題は最後の「選日法は、節月と日の十二支による」の部
分です。
節月については、節切という暦の作り方で作った暦月のことです。この節切
で区切った節月とその中の日の十二支で決まります。
ついでに、節切による暦月とそれぞれの暦月の受死日に相当する十二支は
正月:戌 二月:辰 三月:亥 四月:巳
五月:子 六月:午 七月:丑 八月:未
九月:寅 十月:申 十一月:卯 十二月:酉
となっています。これを見ると質問者のおっしゃる通り、2月は辰の日が受
死日となっています。
質問者が示した2020/2/19の日の干支は「壬辰」ですから、十二支は辰。そ
れなのに「受死日」になっていないので質問者は首を捻られたようです。
問題は、質問者の示した日付が新暦によるもので、節切の暦ではなかったこ
とでした。
◇節切は「二十四節気区切」
さて、節切とは何のことかというと、二十四節気の「節で区切ること」です。
二十四節気には、「節」と「中」がありますが、このうちの「節」を使って
一年を分割すると、12の区間に分けることが出来ますから、この12の区分そ
れぞれを一月と考え、これを「節月(せつげつ)」と呼びます。12節月で一
年を表せますから、これも一種の暦と考えることが出来ますので、これを
「節切の暦」などと呼ぶ場合があります。
具体的に言えば、立春(正月節)から啓蟄(二月節)の前日までを正月、啓
蟄から清明(三月節)の前日までを二月、清明から・・・とするというもの
です。2020年の新暦の日付で節月の期間を示せば
正月 2/4〜 3/4 (立春〜啓蟄前日)
二月 3/5〜 4/3 (啓蟄〜清明前日)
三月 4/4〜 5/4 (清明〜立夏前日)
(略)
十一月 12/7〜*1/4 (大雪〜小寒前日)
十二月 *1/5〜*2/2 (小寒〜立春前日)
(注意:* 印の日付は2021年のもの)
のようになります。
「節切」という言葉は元々は暦注を決定するための計算(撰日法)の一つを
指す言葉でした。「節切」によって決定される暦注は、十二直や、三隣亡、
一粒万倍日等々沢山あり、
「一粒万倍日」は節切の正月の丑・午の日、二月の酉・寅の日・・・
といった具合に節月と日の干支等との組み合わせてよって決められます。
今回の話のきっかけになった「受死日」もこうした節切と十二支の組み合わ
せによって決まる暦注です。
質問者の示した新暦の2020/2/19という日付は、節切の暦で考えた月日では
正月16日になりますので、このあたりの受死日を見るのなら「二月:辰」で
なく、「正月:戌」の組み合わせを探すことになります。お示しの日前後で
これを探すと、6日前か6日後の「戌の日」がその日となります。新暦の日付
ではその日は、2020/2/13と2/25となります(節切では正月10日と22日)。
◇節切の暦は太陽暦
二十四節気は太陽の位置によって決められていますから、太陽暦そのものと
いうことが出来ます。ということは、太陽暦の一種である新暦(現在私たち
が使う暦、グレゴリオ暦)とは良く似た暦となることが予想されます。
前述した節月の期間を示した新暦の日付は、2020年のものですが実は他の年
でもこの日付はほとんど変化しません。新暦の月日に比べると節切の暦の日
付はおよそで「1ヶ月と 5日程度遅れる」こと以外は新暦と大差ないことが
分かります。
ではここの節切の暦を使うのはどのような方々かというと、現在では専ら占
いをなさる方々。
本当の生まれの年干支は立春の日で切り替える。
節分までに生まれた人の年干支は前年の干支となる
等と云う生まれ年の説明をよく聞きますが、これは節切の暦で考えているか
らこうなります。占いの本などには、生まれ年の年干支を立春によって切り
替える理由として
旧暦は立春の日から一年が始まる暦で、
占いは旧暦を使って立てるのが本式
と説明しているものがありますが、この説明が間違いであることは、この日
刊☆こよみのページをお読みの方々にはお分かりですね。これは「旧暦」と
「節切の暦」を混同した説明です。旧暦と節切の暦は別物ですからお間違え
の無いように。
旧暦は太陰太陽暦ですので、その一年は大体四季の巡りの周期と同じですが
それぞれの年ごとに比べてみれば、最大で1月近く暦の月日と季節との間に
差が生じることがありますから、旧暦の日付をそのまま農業などに利用する
ことは出来ません。
その点で言うと、節切の暦は太陽暦そのもので四季の巡りと良く一致した暦
ですので旧暦時代には、農作業の時期の目安として節切の暦を使っていたよ
うです。節切の暦と同じ太陽暦である新暦を使う現在では、節切の暦をこう
した実用的な目的で使用する必要がなくなり、占いの世界との関係で登場す
るくらいの存在になってしまっています。
(『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、
magazine.std@koyomi.vis.ne.jp までお願いします。)
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