暦と天文の雑学
http://koyomi8.com/reki_doc/doc_0150.html
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旧暦の日付が違う?(2001年の暦日相違騒動)
2001年のことです。旧暦の日付に関してちょっとした騒動が起きました。過ぎてしまった騒動ではありますが旧暦の作りを考える上で面白い参考例でもあるので、この件について採り上げてみました。まずは騒動の切っ掛けから。
『今年(2001年)の旧暦の日付が本によって2通りあり、どちらが正かもめている』
私も当時、偶然に夕方のTVニュースでこの話が報道されたのを見ていました。全国版のTV番組で珍しく暦の話題が取り上げられていたので記憶に残りました。ここでいう「本によって・・」の本とは年末になると書店の店頭に並ぶ「神宮○×暦」といった名前のついた本のこと。日の吉凶なども事細かに書かれているあの本です。
この類いの本はみなよく似ているのですが、別々の出版社から出版されています。今回問題となったのは、そんな中でもかなり大手の2社が刊行したものの食い違いでした。その2社が刊行した本の旧暦の日付が異なっている箇所があって、どちらが正しいのかでもめているという話でした。特にその年の5月の連休の時期の旧暦の日付が違っていることが大きな問題となっていました。
さて、ここで「旧暦の日付が違ったら、なにが困るの?」と考える方が多いのではないでしょうか。かく言う私はそう思った一人です。ですが一部の業界の方々にとってはこれは「大問題」なのでした。その理由は日の吉凶判断としてよく使われる大安・仏滅などの「六曜(ろくよう)」は旧暦の月と日で決まる仕組みだからなのです。
「大安の日は結婚式が多い」と言うことは半ば常識化した現象です。当然結婚式場関係者は敏感に反応することでしょう。問題となった年の5月の連休の最後の日、5月6日の日曜日が一方の本では大安で、もう一方では仏滅となっていることからさあ大変。
「日曜日の大安」なんて、結婚式場にとっては有り難い「黄金の日曜日」のはず。それなのに別の本で調べたら「仏滅」だったでは、「大安と仏滅」いえ「天国と地獄」くらいの違いがありますよね?
なぜこんなことが起こったのかな?
と思っていた矢先でした。この問題に興味を持った某週刊誌から当サイトに問い合わせがあり、電話取材を受けることになりました。その取材の際に記者さんから一方の本が「中国の万年暦という本から旧暦の日付を得ている」という話を教えて頂きました。この話を聴いて、なぜこの問題が発生したのかという疑問が一気に解けました。簡単な話です、日本と中国の間に「時差」があるからです。
なぜ時差があるとこうした問題が起こるのか、それを説明する前に関係する4つの事柄を確認しておきます。
上記の4つの話は「こよみのページ」を訪れてくれたような方には「当たりまえ」のことでしょうが、念のために書きました。
ここで問題になるのは、1の日付の変わる瞬間はそれぞれの国の深夜の0時に変わるという国毎に違った瞬間であるのに対して、4の新月の瞬間は地球上どこでも同じ瞬間だということです。
さて、1と4の関係を2001年の例にあわせて示したものが次の図です。
図の中央付近に時刻を示す青線を入れてみました。上段が日本標準時、下段が中国の標準時(北京標準時?)。図の通り日本と中国の時差のために日付が変わるタイミングがずれています。このため旧暦の4月1日に対応する新暦の日付が
日本では 新暦 4月24日
中国では 新暦 4月23日
と違ってしまいます。
この 1日の差が今回の問題の原因です。ちなみに、この例では日本と中国とでは 1時間の時差があると考えていますが、 1時間の時差があると新月の瞬間の正確な日時はどうなるかと言うと、
雑誌からの電話取材の中で記者から「六曜は元々中国から伝わったものだから、中国のものの方が正しいのでは?」と質問されたのですがこれはナンセンスです。暦日が切り替わるのはそれぞれの国(や地域)の零時なのですから。
もし「中国から伝わったから、中国の方が・・・」という話を強引に採用するとしたら、日本においては「旧暦の4月は新暦の4月24日の午前1時から始まります」ということになります。ではこの場合、新暦の4月24日の午前0時~1時までは旧暦では何日になるのでしょう? 旧暦の4月2日の始まりも午前1時にしないといけないの? それとも旧暦の日付に小数点とかを付けて表現しますか? という馬鹿な話になってしまいますね。
さてこれで「なぜ間違いが起こったか」の謎解きは出来たのですが、問題になっている出版社(の間違った方)にしてみればなかなか簡単には引き下がれなかったのでしょうね。これも雑誌記者さんからの情報ですが、もめている2つの本の販売部数は、片や200万部、片や30万部とか。この手の本を購入する人の多くは日の吉凶を知りたいという方でしょうし、六曜は日の吉凶を占うものとして、今では最も一般的なものとなっていますから、間違えた方の出版社は事態の収拾が大変だったでしょうね(←他人事)。
こよみのページの管理人として気になったのは、間違えた方の出版社がこれまでも中国の万年暦の旧暦の日付をそのまま使っていたとすれば、旧暦の日付のずれは今年に限ったことではなかったはずですが、どうして今まで問題にならなかったかなということ。気にはなりましたが、わざわざ間違っていた出版社の過去の本まで取り寄せて調べるまではしておりませんでした。悪しからず・・・。
最後に、今回の騒ぎで一番大きな問題となりそうだった新暦2001年5月6日の日曜日の旧暦の日付と六曜についてですが、こよみのページの計算ではこの日は旧暦4月13日となり、六曜は「仏滅」となります。結婚式場にとっては、有り難くない結果となってしまいましたね(でも私のせいじゃないですからね!)。
初出 2001/04/02
修正 2023/01/22 解説文の大幅修正、説明画像の追加と修正
2001年のことです。旧暦の日付に関してちょっとした騒動が起きました。過ぎてしまった騒動ではありますが旧暦の作りを考える上で面白い参考例でもあるので、この件について採り上げてみました。まずは騒動の切っ掛けから。
『今年(2001年)の旧暦の日付が本によって2通りあり、どちらが正かもめている』
私も当時、偶然に夕方のTVニュースでこの話が報道されたのを見ていました。全国版のTV番組で珍しく暦の話題が取り上げられていたので記憶に残りました。ここでいう「本によって・・」の本とは年末になると書店の店頭に並ぶ「神宮○×暦」といった名前のついた本のこと。日の吉凶なども事細かに書かれているあの本です。
この類いの本はみなよく似ているのですが、別々の出版社から出版されています。今回問題となったのは、そんな中でもかなり大手の2社が刊行したものの食い違いでした。その2社が刊行した本の旧暦の日付が異なっている箇所があって、どちらが正しいのかでもめているという話でした。特にその年の5月の連休の時期の旧暦の日付が違っていることが大きな問題となっていました。
さて、ここで「旧暦の日付が違ったら、なにが困るの?」と考える方が多いのではないでしょうか。かく言う私はそう思った一人です。ですが一部の業界の方々にとってはこれは「大問題」なのでした。その理由は日の吉凶判断としてよく使われる大安・仏滅などの「六曜(ろくよう)」は旧暦の月と日で決まる仕組みだからなのです。
「大安の日は結婚式が多い」と言うことは半ば常識化した現象です。当然結婚式場関係者は敏感に反応することでしょう。問題となった年の5月の連休の最後の日、5月6日の日曜日が一方の本では大安で、もう一方では仏滅となっていることからさあ大変。
「日曜日の大安」なんて、結婚式場にとっては有り難い「黄金の日曜日」のはず。それなのに別の本で調べたら「仏滅」だったでは、「大安と仏滅」いえ「天国と地獄」くらいの違いがありますよね?
なぜこんなことが起こったのかな?
と思っていた矢先でした。この問題に興味を持った某週刊誌から当サイトに問い合わせがあり、電話取材を受けることになりました。その取材の際に記者さんから一方の本が「中国の万年暦という本から旧暦の日付を得ている」という話を教えて頂きました。この話を聴いて、なぜこの問題が発生したのかという疑問が一気に解けました。簡単な話です、日本と中国の間に「時差」があるからです。
なぜ時差があるとこうした問題が起こるのか、それを説明する前に関係する4つの事柄を確認しておきます。
- 日付は、それぞれの国(または地域)の標準時零時に切り替わる。
※夜中の零時(これを「正子(しょうし)」という)のこと。
- 旧暦の暦月は新月を含む日に始まる。
※旧暦の作り方については「旧暦の月の決め方」をお読みください。
- 新月とは、太陽の視黄経と月の視黄経が同じになる瞬間である。
※「視黄経」というのは、天文学で用いる座標系の一つ(黄道座標)での経度の値。話が長くなるので、ここでは説明は省きます。「ふーん、そういうものか」と思っておいて下さい。
- 新月となる瞬間は地球上の位置に関係無く、同じ瞬間である。
上記の4つの話は「こよみのページ」を訪れてくれたような方には「当たりまえ」のことでしょうが、念のために書きました。
ここで問題になるのは、1の日付の変わる瞬間はそれぞれの国の深夜の0時に変わるという国毎に違った瞬間であるのに対して、4の新月の瞬間は地球上どこでも同じ瞬間だということです。
さて、1と4の関係を2001年の例にあわせて示したものが次の図です。
図の中央付近に時刻を示す青線を入れてみました。上段が日本標準時、下段が中国の標準時(北京標準時?)。図の通り日本と中国の時差のために日付が変わるタイミングがずれています。このため旧暦の4月1日に対応する新暦の日付が
日本では 新暦 4月24日
中国では 新暦 4月23日
と違ってしまいます。
この 1日の差が今回の問題の原因です。ちなみに、この例では日本と中国とでは 1時間の時差があると考えていますが、 1時間の時差があると新月の瞬間の正確な日時はどうなるかと言うと、
- 日本時では、4月24日 0時26分
- 中国時では、4月23日 23時26分
雑誌からの電話取材の中で記者から「六曜は元々中国から伝わったものだから、中国のものの方が正しいのでは?」と質問されたのですがこれはナンセンスです。暦日が切り替わるのはそれぞれの国(や地域)の零時なのですから。
もし「中国から伝わったから、中国の方が・・・」という話を強引に採用するとしたら、日本においては「旧暦の4月は新暦の4月24日の午前1時から始まります」ということになります。ではこの場合、新暦の4月24日の午前0時~1時までは旧暦では何日になるのでしょう? 旧暦の4月2日の始まりも午前1時にしないといけないの? それとも旧暦の日付に小数点とかを付けて表現しますか? という馬鹿な話になってしまいますね。
さてこれで「なぜ間違いが起こったか」の謎解きは出来たのですが、問題になっている出版社(の間違った方)にしてみればなかなか簡単には引き下がれなかったのでしょうね。これも雑誌記者さんからの情報ですが、もめている2つの本の販売部数は、片や200万部、片や30万部とか。この手の本を購入する人の多くは日の吉凶を知りたいという方でしょうし、六曜は日の吉凶を占うものとして、今では最も一般的なものとなっていますから、間違えた方の出版社は事態の収拾が大変だったでしょうね(←他人事)。
こよみのページの管理人として気になったのは、間違えた方の出版社がこれまでも中国の万年暦の旧暦の日付をそのまま使っていたとすれば、旧暦の日付のずれは今年に限ったことではなかったはずですが、どうして今まで問題にならなかったかなということ。気にはなりましたが、わざわざ間違っていた出版社の過去の本まで取り寄せて調べるまではしておりませんでした。悪しからず・・・。
最後に、今回の騒ぎで一番大きな問題となりそうだった新暦2001年5月6日の日曜日の旧暦の日付と六曜についてですが、こよみのページの計算ではこの日は旧暦4月13日となり、六曜は「仏滅」となります。結婚式場にとっては、有り難くない結果となってしまいましたね(でも私のせいじゃないですからね!)。
- 【補足質問&回答】
- 質問.旧暦はどこが決めるか?
答え.好きにして下さい(?)
「旧暦はどこが決めるのですか? 国立天文台ですか?」という質問を時々いただきます。でも答えは既に書いたようなもの。現在の日本には「旧暦」を所管している公的機関は存在しません。旧暦の旧暦たる所以は法的には「廃止された暦」だからです。
旧暦がまだ現役だった昔なら、旧暦が正式な暦だったのですから今回の様な問題が発生したとしても、御上の権威のもと「A社が正しい、B社は誤り」とはっきりさせることが出来たのですが、法的に廃止されてしまっている旧暦には「お墨付き」を与えてくれる公的機関も権威も存在しませんから、現在出回っている(?)「旧暦」ははっきり言えば勝手に作られたものに過ぎません。ですから
どれを信じるかは、あなたの好きにして下さい
という答えになってしまうのです(もっとも、比べてみて他と違っていれば今回のように問題になりますので、おかしな計算なんかしていればバレてしまうわけですが)。
- 質問.話に登場した大手2社ってどこのことですか?
答え.「高島易断 神宮館」と「高島易断 神聖館」
過ぎた話ではありますが、当時はニュースでも報道されましたし、雑誌などでも採り上げられていましたから隠す必要もないでしょうから事実として書いておきます。ちなみに中国の万年暦を使っていたというのは後者の方でした。きっとこの件があったので、今はもう中国の暦をそのまま使うなんていうことはしていないと思いますが。
-
余談
- 日の吉凶・六曜について
- 六曜(大安・仏滅・・・)は、旧暦の「月」と「日」の関係で単純に決まっています。解ってしまえば旧暦時代の「曜日」みたいなもの。有難味なんてないと思うのですが、どうでしょう?
- 万年暦の紙の色
- 本文中にも登場した中国の万年暦を参考資料として使ったことがあります。この本、めでたい色ということなのでしょうが「赤い紙」に印刷されていました。この赤い紙が厄介でした。何かのチェックに使うときに書き込みしても見づらい(赤ペンなんかで書いたらそれこそ見えない)。コピーしようとしても、普通のモノクロのコピー機だと全体が真っ黒になって文字が読めません。本当に使いにくいったらありゃしない・・・という本でした。
- 占いはしません!
- 「こよみのページ」なんていうWebサイトを開いているので誤解されることが多いのですが、私は六曜占いなんてものには興味がありません。結婚に吉日を・・・なんて相談を持ちかけられても困るのです。
こんな質問がやってきたときには、今回話題の「神宮○×暦」を購入するとか、占い師さんに相談してくださいと返事することにしております。悪しからず。
初出 2001/04/02
修正 2023/01/22 解説文の大幅修正、説明画像の追加と修正
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