うるう秒(閏秒)の話
「2005年の最後にうるう秒が挿入されることになりました」
というニュースが流れました。ご存じの方も多いと思います。
まだご存じでなかった方も、この文章を読んでいるわけですから
 「へーそうか」
と思ってくれていることと思います。そうなんですよ(そして何年後かにお読みのあなたは、そんなこともあったなと思い出して下さいな)。

後日追記 (2017/01/03) 
この記事を書いた2005年以降もうるう秒の挿入が行われています。挿入状況については、この説明の後段のグラフをご覧下さい。

  1. うるう年・うるう月・うるう日 
     暦のはなしになるとこの「うるう(閏)」という言葉が時々顔を出します。現在日本で使われている暦では四年に一度は2/29のうるう日が現れ、この年を閏年と呼んでいます(閏年の話参照)。
    旧暦では、ほぼ三年に一度うるう月と呼ばれる月が挿入され一年が十三ヶ月になりました(旧暦の話他参照)。

    新暦の閏日も、旧暦の閏月もどちらもその挿入は一定の法則性があって、先々まで計算で求めることが出来ます。ことに新暦の閏日は四年に一度、西暦が 4で割り切れる年は二月が29日まであって、この日が閏日だと言うことは小学生でも知っています。もちろん皆さんもご存じですよね(例外も 400年に 3度あると言うことも、ご存じのはずですね)。

  2. うるう秒はいつ入る? 
     「閏秒は何年毎に入るんですか?」

    と質問されたことがあります。
    この質問はうるう秒がうるう日やうるう月と同じようなもので、その出現には規則性があるに違いないと考えてなされたものなのでしょうが、うるう秒の挿入や削除のタイミングについては規則性はありません。

    規則性が無いならどうやってうるう秒を挿入・削除することが出来るのかと言えば、各種の観測の結果から、短期的(1,2年)な未来を予測して、必要が有ると考えた場合に「うるう秒」を設けるのです。
  3. うるう秒が必要な理由 
     私たちの先祖が、時間を計るようになったとき、一番最初に着目したものは地球の自転でした。
     日が昇り日が沈みそしてまた日が昇るという、地球の自転に起因する太陽の動きから「1日」という長さを作りました。それから長い間、地球(の自転)は我々にとって正確な自然の時計として機能してきました。

     自然の時計に対して、人間は人工の時計を作るようになりました。
     はじめは、簡単な砂時計や水時計だったのでしょうが、それが振り子時計となり、水晶発振の時計となり、ついには数千万年〜数億年に1秒の狂いしかないといわれる原子時計まで作れるようになりました。
     こうして大変正確な人工の時計が出来てみると、それまで正確で進み遅れなど無いと考えられていた自然の時計、地球の自転にわずかながら変化が有ることがわかってきました。 
    1. 地球自転は不規則? 
       地球の自転から求めた時刻をUT1(Universal Time 1/世界時1)といいます。これに対して、世界中の原子時計の示す値を平均化した時刻をTAI(Temps Atomique International/国際原子時)の差をとってみると、次のようなグラフが出来ます。
      UT1-TAIの変動 このグラフはIERSが公表(Bulletin-B)している5日ごとのUT1-TAIの差から2005年付近の変動量を取り出したものです。

      変動量を示す単位はmsec(千分の一秒)ですから、ずいぶん小さな変化だということはおわかりいただけるでしょう。そんな小さな変動ですから、ごく最近まで気づかれずにいたわけです。
    2. >数百年〜数千年前からの地球自転の変化 
       前段で説明した変動は1年にも満たない短い間の変動でしたがもう少し長く、数百年〜数千年レベルでの変動もあります。

       現代なら、原子時計に代表されるような精密な時計や測定機器が有るので極くわずかな地球自転の変動もとらえられますが、そんなことが出来るようになったのはごく最近のことで、昔の地球自転が遅かったか早かったかなどそれを直接測定した記録など有るはずもありません。しかしながら、地球の自転速度の変化を間接的に示す証拠は、やはり残っています。その一つが日食の記録です。

      日食の予報と観測地点のずれ 右に示した図をご覧ください。

       図には灰色と赤色の星が3つづつ描かれています。これはある時に皆既日食が起こった場所を示しています(模式的に書いたもので、実際の記録ではありません。あしからず)。ここで、

       灰星:計算上皆既日食が起こったはずの地点
       赤星:実際に皆既日食が起こった地点

      を表します。
      図の右端の「A.現在」では計算も実際の観測も一致するため、赤星と灰星は重なっています。
      これに対して中央の「B.昔」では灰星で示した計算された地点ではなく、それより東の地点(赤星)で日食が観測されています。
      さらに、図の左の「C.大昔」ではこの傾向がより顕著に現れています。

      地球は西から東へ向かって自転しているので、計算上日食が起こるはずの地点(灰星)より、実際に起こった地点(赤星)が東側にずれているということは、日食の予報計算で考えている地球自転(現在の地球自転の速度)より、昔の地球自転の速度が速かったことを示しています。中国やエジプトには、古い日食の観測結果の記録が残っているので、それらを丹念に調べてゆくと、この傾向がはっきりと出てきます。

      日食の古記録からその当時と現在での地球自転の変化を調べる試みは多くの研究者によって行われていますが、それらの研究結果を見ると、例えば今から2000年ほどであれば当時の予報と実際の観測地点のずれは時間にして 9000〜 10000 秒程になることがわかります。

      ちなみに、こうした数千年程度の自転速度の変化は主に気候変動による海面の上昇や下降によって引き起こされるもののようです。
    3. もっと長い目で見ると(数十万年〜) 
       数十万年、数千万年、数億年という長い期間で考えると地球の自転速度はずっと、少しずつ遅くなってきています。
       地球の自転が遅くなる理由として最大のものは、潮汐摩擦だといわれています。その様子を模式的に表したのが次の図です。
      潮汐摩擦による自転の減速 ここでは話しを単純にするために月と地球の関係だけを書いてみました。
       ご存じのとおり、地球の海は月(と太陽)によって潮の満ち干を起こします。この満ち干を海洋潮汐といいます。

       このとき地球の月に面した側と、その反対側は満ち潮となって、大量の海水が集まります。図で水色の楕円で示されたのが海の水だと思ってください(うんと誇張しています)。
       この楕円の長軸(左右の出っ張ったところを結ぶ軸)は月の方を向いているはずです。月がゆっくりと地球の周りを公転してゆくとこの軸もその月とともにゆっくりと動くはずです。その楕円形になった海水の中で地球はくるくると自転しています。

       月の公転はゆっくりしています(1周するのに約1月)から、楕円形の水もほとんど動きません。それに対してその中で自転する地球は1日に1回転とかなり高速に回転しています。
       ほとんど動かない海の水の中で高速に回転する物体があれば、水と回転する物体との間には摩擦が生じます。そしてこの摩擦がブレーキとなって、回転する物体の回転を止める方に働くことは想像できると思います。

       そして実際にこの摩擦がブレーキとなって、地球の自転は徐々に遅くなっていっているのです。どのくらい遅くなっているかというと、その割合は100年で1日あたり0.001秒程度だといわれています(あら本当にちょびっとだ)。
    4. 時計を合わせなくちゃ! 
       既に書いたとおり原子時計は、数億年に1秒ずれるかどうかというほどの正確さを誇っています。そう考えれば時計あわせなんて少なくともここ何千年間は全く必要なさそうです。それなのに、「うるう秒」という時計あわせが数年に1度行われるのはなぜでしょうか?

       元々我々は地球が太陽に対して1回自転する時間を「1日」と考えて時の体系を作ってきました。昼の十二時頃には太陽はほぼ真南に有り、暖かい日差しを送っているはずと考えて生きているのです。
       全く狂うことのない原子時計を得、それの示す時刻で日々を過ごしたとします。そして何千年も何万年も経ったとします。原子時計はそれくらいの間なら1秒も狂っていないはずですが、原子時計が昼の12時を示す頃、外に出るとちょうど太陽が東の空から昇ってきたとするとどうでしょう?

       原子時計が狂っているわけではありません。地球の自転速度が長い間に遅くなり、昼の十二時に日の出となるようになっただけ。狂っているのは原子時計ではなくて地球自転の方です。

      遅れているのは地球自転だということは理解できるでしょうが、今まさに日が昇る光景を見ながら、
       「やあ、昼食でも食べるか」
      という生活はおかしいと思いませんか?

       いかに正確な時計を得たとしても、やはり時の概念の根底には地球の自転による時の流れがあります。多少の不正確さはあっても地球の自転に即した時刻の方が人間の生活の基準としては適しているようです。そのため、ずれてしまった地球の自転に合わせるため、正確な時計である原子時計をわざとずらすもの、それが「うるう秒」なのです。
  4. 「うるう秒」のお知らせはどこから 
     うるう秒をいつ入れるかは、「各種観測から予測」して行うと書きましたが、これを担当するのはIERS(International Earth Rotation Service/国際地球回転事業)という国際機関です。
    IERSは世界中のVLBI,SLR,LLR,GPS等から得られた地球回転の精密観測の成果を取りまとめ、これを公表しています。それらの観測成果からうるう秒の挿入・削除が必要と判断すると、これを6ヶ月毎に出されるBulletin-C で告示し各国の関係機関に通知します。

    Bulletin-Cは、IERSのサイトの以下のURLでご覧になれます。
    ftp://hpiers.obspm.fr/iers/bul/bulc/bulletinc.dat
    2006年のうるう秒挿入の告示は、次のようになされています。

    A positive leap second will be introduced at the end of December 2005.
    The sequence of dates of the UTC second markers will be:
        2005 December 31, 23h 59m 59s
        2005 December 31, 23h 59m 60s
        2006 January  1,  0h  0m  0s
    これによれば、2005年末にうるう秒が挿入される、
    12/31 23h59m59sのあとの、 23h59m60s がうるう秒です。
    日本標準時はUTC + 9時間ですから、日本では2006/1/1 08h59m60s がうるう秒ということになります。
  5. 国際原子時(TAI)と協定世界時(UTC) 
     「日本時は、世界時+9時間」

    といったことをどこかで聞いたことが有ると思います。一般にこの世界時は

     UT (Universal Time)

    と書かれます。普通の使い方ならこれでいいのですが、厳密にはUTにもいくつか種類があり、使い分ける必要があります。

     その一つ「UT1」とよばれるものは、地球の自転の様子をよく表すもので、UT1といえば地球の自転に即した時刻と考えることが出来ます。UT1は地球の自転の様子を表す時刻ですから、地球の自転速度が変化すればこれに合わせて変化します。また、地球の自転の様子を実際に観測しないと求まらない時刻でもあります。
     UT1にはこうした不便な側面は有りますが、人間の持つ「伝統的な時刻の概念」には一番近い時刻系といえるでしょう。

     UT1のように刻々と変化する時刻系がある一方、物理的な基準から求められた不変の「1秒」を積み重ねて、数億年に1秒という精度で動き続ける時刻系に国際原子時(TAI:Temps Atomique International)があります。
     TAIは変動の無い一様な時を刻むものと考えることが出来ますし、また「時計」ですから、UT1のように「観測してみないと時刻がわからない」なんていう不便さは有りません。
     
     UT1とTAIにはそれぞれ一長一短がありますので、お互いの長所を合わせてよりよい時刻系として考えられたものが協定世界時(UTC:Coordinated Universal Time)です。

     UTCは、秒間隔一定としてTAIによってこれを管理し、同時にUT1による地球の自転周期を監視します。そして、UT1とUTCの差が±0.9秒(-1975までは±0.7秒)以内に入るように、必要が有ればうるう秒を挿入・削除することで人工的に管理された時刻システムです。

     私たちが「世界時」という場合、普通はこの「UTC」を指しています。なお、2005年現在、UTCとTAIの関係は

      UTC = TAI - 32秒

    です(2006/1/1には -33秒となる予定)。
  6. うるう秒挿入の様子 
    2005のUT1-TAI2005年のはじめから現時点(2005/10)の TAI-UT1の差をグラフ化したものが右の図でです。

    季節変動もあり後半やや値が減少しているが2006年の半ばにはその差は33秒に達する勢い。うるう秒の挿入ももっともか。
     
    うるう秒挿入履歴
    最後に、1972年からのうるう秒挿入の様子をグラフ化した図を示します。
    (このグラフは、2017.1.3にアップデートしました)
※アップデート(それ以降の閏秒の記録)
・2008/12/31 の最後に 1秒の閏秒挿入がありました。
・2012/06/30 の最後に 1秒の閏秒挿入がありました。
・2015/06/30 の最後に 1秒の閏秒挿入がありました。
・2016/12/31 の最後に 1秒の閏秒挿入がありました。

資料庫
グラフに使用した数値は、IERSのBulletin-B,C等の数値を利用した。オリジナルのデータをご覧になりたい方は次のURLをたどってください。

Bulletin C
ftp://hpiers.obspm.fr/iers/bul/bulc/bulletinc.dat 

Bulletin B
http://hpiers.obspm.fr/iers/bul/bulb/ 

うるう秒挿入の履歴
http://hpiers.obspm.fr/eop-pc/earthor/utc/TAI-UTC_tab.html 

余 談
シーラカンスの一年は何日?
海の堆積物の中にには、潮汐の変化を読み取れるものがあり、それが化石化したものがアメリカやオーストラリアで発見されるそうです。その研究から、9億年前は1日の長さが18時間ほどだったとされています。
1日の長さはこのようにだんだんと長くなっていますが、1年の長さはあまり変わりません。と言うことは、昔は1年の日数が今より多かったわけです。

 365日 × 24時間 / 18時間 ≒ 487日

と言う具合です。
生きた化石といわれるシーラカンスは3億5千万年前に出現したといわれますから、シーラカンスは1年が400日以上もあった昔を覚えているかも。
 
日本でうるう秒を所管する機関は?
国立天文台情報通信研究機構(旧郵政省通信総合研究所)が所管しています。
うるう秒はいつはいる?
うるう秒が入るタイミングですが、
 第一優先:12月と6月の末
 第二優先:3月と9月の末
 第三優先:その他の月の末
(ただしいずれも世界時での日付。日本時でいえば翌月の一日となります。)
となっています。普通は第一優先の時期に行われますが、それでは間に合わないようなときには第二、第三という順で時期を決定します。
うるう秒は挿入されるだけ?
削除される場合もあります。この場合
 23h59m58s
 00h00m00s
という風になります。ただし、1972年から現方式になって以来負のうるう秒(59s を削除するうるう秒)の例はありません。
117番(NTTの時報)でカウントダウン?
うるう秒の話に興味を持ってくれる人がいると、その約3割ほどの人が
 「117番(NTTの時報)でうるう秒を確かめてみよう」
と考えます。
2008/12/31(日本時では、2009/01/01)のうるう秒挿入の時まで、これを試してみた方は、きっとNTTのつれない仕打ちによって、悲しい思いをしたことと思います。
この時までは、NTTの時報はうるう秒が入る100秒前から、1/100秒ずつ調整して何事もなかったようにうるう秒を迎えてしまっていました。つまり59分の秒信号を数えても、59だったり61だったりということは無かったのです。
かくいう私も、初々しさの残る高校生の時代にこれを確かめてみて、そして幻滅した口です。

後日追記 (2012/07/30) 
 2012/06/30のうるう秒挿入のときから、NTTのこのつれない仕打ちはなくなりました。これからは、NTTの時報の秒信号を数えてうるう秒を実感できるようになりました。
 この変更の情報は、ぽぽぽぽーん117さんが教えてくださいました。ありがとうございました。

一秒の長さとは
現在使われる秒は、「SI秒」と呼ばれています。
1SI秒の長さは次のように定義されます。
「セシウム133原子の基底状態の2つの超微細構造準位間の遷移における放射の 9192631770周期の継続時間」
力学的な一秒
天体の位置計算などに用いられる力学的な時刻系を力学時といいます。
力学時は、「どこで計った時間か」で違ってしまうので、地球力学時(TDT)や太陽系力学時(TDB)などがあります。
地球力学時の1秒はというと
「地球の平均海面における1SI秒をもって地球力学時(TDT)の1秒と定義する。」
となっています。
ちなみに、TDT と TAI の関係は

TDT = TAI + 32.184 秒
天文計算(軌道計算)などに顔を出す?Tと言うものがありますが、これは
?T = TDT - UT1 = TAI - UTC + 32.184 - (UT1 - UTC)

と言う風に表されます。
UTC などで示された時刻での天体の位置計算ではこの?Tの補正を忘れないように。
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