日刊☆こよみのページ スクラップブック(PV , since 2008/7/8)
【猿子】(さるこ) 「稲葉の猿子」ともいう。 稲葉についた露が下から上へとのぼる現象を指す言葉。 昨日は二十四節気の白露。 早朝に外を歩けば、草の葉の露に足下が濡れる季節がやって来ます。 こんな時期に稲の葉についた露をじっくりと眺める時間があったら、猿子が 稲葉を昇る様子をご覧になれるかも知れません。と簡単に言いますが、現代 だとそう言う環境にある方は少ないかもしれませんね。 今を去る三十数年前、私の周囲には今は得難くなったそうした環境がふんだ んにありました。それはもう、有り余るほど。 そしてまた当時は、有り余るほど時間もありましたから、この「猿子」を目 撃する機会がありました。 この子猿たちが稲の葉を登るのは、稲の葉があるかなしかの風に揺れた直後。 葉についた沢山の露が、スルスルとというか、ツツーッと見事に登って行く のでした。面白いので人工的に登らせてみようとそれらしい状況を作り出し て見てもうまく登ってくれません。案外に気むずかしい猿たちです。 この稲葉を登る水滴に「猿子」という名前がついているのを知ったのは実は 最近です。気象学者の倉嶋厚さんの本を読んでいて、あの現象がこう呼ばれ ていることを知りました。 倉嶋博士の説明によれば、露と露が合体する際、稲葉は上向きのキザキザが あるため、合体が上へ上へと向かって進むのがこの現象なのだそうです。 なるほど、まだピカピカの少年だった私が見たあの現象は、こんな原理で起 こっていたのですね。 稲葉の猿子、三十数年を経てようやく知り合いの名前を知ったような気がし ました。名前は判りましたが、そう言えば最近はとんとご本人にはお目にか からなくなった気がします。 今から逢おうと思っても、あいにくとこの辺の稲は刈り取られてしまってい ます。稲葉の猿子さんに逢うにはまた来年まで待たないといけませんかね?
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