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【穭】(ひつじ 「禾偏+魯」)
 (ヒツチ・ヒヅチとも) 刈り取った後に再生する稲。秋の季語。
 古今和歌集秋「刈れる田に生ふる―の穂に出でぬは世を今更に秋はてぬとか」
  《広辞苑・第五版》

 「穭(ひつじ)」という文字は、禾偏に魯という文字。「櫓」の木偏を禾偏
 に替えた文字です。
 稲刈りの終わった秋の田んぼには、刈り取り後の株からまた稲の新芽が伸び
 て来ることがあります。これが「ひつじ」。

 このひつじが顔をだすのは、「穭生え」、沢山穭が生えた田んぼを「穭田」
 などと呼びます。「穭田(ひつじだ)」という言葉を耳で聞くとなんだか田
 んぼに羊が群がっていそう。そういう「羊田」もまたいいかも知れませんが、
 今回は「禾編+魯」の「穭」の話です。

 生まれ故郷の福島では、稲刈りは九月も半ばを過ぎた頃に行われましたから
 穭が生えると言っても緑の葉が出てくるくらいですが、現在住んでいる紀伊
 半島の南の先っぽでは稲刈りは八月の上旬には始まりますから、こちらの穭
 は福島の穭とは違って伸びるのに時間がたっぷりあります。伸び出した新芽
 は葉っぱの時期を過ごし、さらに稲穂を実のらせる段階まで進みます。

 稲刈りから一月半以上も経った周囲の田んぼは、収穫後に稲を干すためのに
 架けられた稲架もとりはらわれて、人間にとっては来春の田起こしまで一休
 み中の田んぼです。ですが人間以外にとってはまだまだ田んぼは活動期。

 人間の刈り取った株から生えだした穭は今、収穫の時を迎えて頭を垂れてい
 ます。この実った穭を収穫するのは人ではなくて野鳥たち。
 稲刈り前は稲を荒らす厄介者として逐われていた鳥たちが、いまは誰に逐わ
 れることなく、穭の収穫に忙しく立ち働いています。

※「穭」は、Unicodeの7A6Dできちんと表示されるよとe-arf さんから教えて
 頂きましたので、これにあわせて発行後、若干書き直させて頂きました。

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