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【八方美人】(はっぽう びじん)
 1.どの点から見ても欠点のない美人。
 2.誰に対しても如才なくふるまう人を、軽んじていう語。
   《広辞苑・第六版》

 辞書の説明を読んでちょっと驚きました。
 「八方美人」は 2の悪い意味ばかりで、 1の良い意味があったとは知らなか
 ったからです。
 本来は悪い意味の言葉ではなかったのですね。

 本来の意味がいつの間にか陳腐化して、やがて違った意味に変化してしまう
 という言葉がありますが、どうもこの語もそうした道筋をたどっているよう
 です。

 八方美人はどこから見ても欠点のない美人というよい意味の言葉であったの
 にいつの間にか、「そう見せかけようとする人」という悪い意味も生まれて
 来たように思います。
 誰もが認める良いものだからこそ、偽物がつくられるのでしょう。
 そしていつしか、偽物の方が有名になってしまった(少なくとも私の知る用
 法としては)。少々かわいそうな運命をたどった言葉のようです。

◇間違いじゃなかったんだな?
 昔、私がまだ純真であった少年の頃の話です。
 中学校の卒業前に、同じクラスのみんなで寄せ書きをしました。
 多分、卒業アルバムに載せるためのものだったと思います。

 色紙が順番にクラスの中を巡って、皆それぞれに将来の夢や、座右の銘(中
 学生の頃なのでこんな言葉は使わなかったと思いますが)を書き込み、次は
 私の番というところまでやって来ました。
 何を書こうかなと考えながら、一人前の女子が色紙に言葉を書き込むのを眺
 めていると、彼女は

  八方美人 ○○○子

 と書き込みました。○○○子は彼女の名前。
 何を書こうかと考えていた私ですが、この書き込みを見て

  「『八方美人』て、誰からでもよく見られようとするって言う意味で
   あんまりよくない言葉じゃないの?」

 と言ってしまいました。
 すると○○○子さんは、

  「誰からでもよく見られる素敵な人って言う意味よ」

 と、自信たっぷりに言うのです。
 そうかなと、「?」が沢山浮かびましたが、それ以上は言えなかったので、
 ○○○子さんの書いた「八方美人」はそのまま、色紙の上に残りました。
 ○○○子さんとの会話で「八方美人」という言葉に対して、私は辞書の意味
 の 2を、○○○子さんは 1に近い意味を思い浮かべたことになります。

 八方美人について、私は後世に生まれた「偽物」を指す言葉とばかり思って
 いたので、寄せ書きに書く言葉としては相応しくないと感じましたが、本来
 の意味は○○○子さんの考えたものだったのですね。

 余談ですが、この事件が有ったので○○○子さんが寄せ書きに書いた言葉を
 今もってはっきり覚えているのですが、純真だった頃の私がいったい何を色
 紙に書き込んだかは、全く覚えておりません。

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