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【晩方】(ばんがた)
 ゆうがた。くれがた。
  《広辞苑・第七版》

 ある噺家さんが枕(落語等の導入部分に入れる前置きのような話)のなかで
 「晩方」という言葉を使うのを耳にしました。
 「晩方」とはまた懐かしい言葉だなと感じ、印象に残ったので本日は早々と
 この言葉を採り上げることにしました。

 「晩方」はその昔、親の世代が話す言葉の中に頻繁に現れたので、子供の頃
 の私にはなじみのある言葉でしたが、今では懐かしいと感じるほど使うこと
 も耳にすることも減った言葉の一つです。自分自身を顧みると、おそらく40
 年くらいは使ったことのない言葉だと思います。

 広辞苑の語釈に現れる「ゆうがた(夕方)」は今でも頻繁に使います。
 「くれがた(暮れ方)」もたまに使いますので

  晩方 = 夕方,暮れ方

 であれば、同じ意味の言葉で入れ替えていると言うことも出来るのですが、
 私の中では晩方と夕方、暮れ方がどうしても同じには思えず、辞書の説明は
 どうもしっくりきません。座り心地のよくない椅子に座っている感じです。

 「夕方」は日の光があるか、日没後でもその光がわずかに残っている時間帯を
 指す言葉。「暮れ方」は日没に近い夕方の一部の時間帯で晩方はそれより遅い
 時間、夕方と呼ばれる時間帯の最終盤の日の光がほぼ消える頃以降の時間帯。
 ただしあまり遅い時間は含まないので「夜」という言葉とも違うように私には
 感じられます。

 私の語彙の中で「晩方」に近い時間帯を指す言葉を探すと「宵の口」が引っか
 かるのですが、意味的には近く感じますが「宵の口」ではなんだか洒落すぎて
 いて、晩方に感じる素朴さのようなものが感じられません。もちろんこれも私
 の感覚ではですけれど。

 噺の枕に「晩方」という言葉を枕に使った噺家さんは、お若い方ですけれど古
 典落語を得意とする方なので、枕の中でもこうした言葉がすんなりと出てくる
 のでしょう。おかげで年寄りが懐かしい言葉にふれることが出来ました。

  「こんな言葉は、無くしたくないな」

 自分では何十年も使ってこなかったことを棚に上げて、そんなことを考えなが
 ら落語を聴いている私でした。
 「晩方」、皆さんは使っていますか?

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