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【天衣無縫】(てんい むほう) 
 (天人の衣服には人工の縫い目などがない意から)
 詩歌などに、技巧をこらしたあとがなく、いかにも自然で完美であるさま
 の形容。また、人柄が天真爛漫でかざりけのないさま。
 「天衣無縫な作品」「天衣無縫の人」
   《広辞苑・第七版》

 故事熟語の中でも本日採り上げた「天衣無縫」は比較的よく知られた言葉で
 はないでしょうか(使う機会の多寡は別として)。そして、よく知られてい
 る割には、間違った意味に捉えられやすい言葉でもあります。
 恥ずかしながら私も、間違った意味でこの言葉を捉えていた一人です。

 「天衣無縫」は8世紀末頃の中国で書かれた「霊怪録」という伝奇小説集の
 ような本に登場する言葉です。

 一人の青年の元にある日、天の織女と名のる美女が舞い降ります。織女が身
 にまとう衣には、どこにも縫い目がありません。青年が不思議に思って尋ね
 ると織女は

  「天人の着物はもともと針や糸を使って縫ったものではありません」

 と答えました。
 なるほど、天衣は元々が縫ったものでないので縫い目がない、「天衣無縫」
 が当たり前。技巧のあとがなく自然で完璧に美しい。
 これが辞書の語釈前半に登場する「完美であるさま」なのですね。そしてこ
 れが「天衣無縫」の正しい意味です。

◇私はこうして間違いました!
 ここからは天衣無縫という言葉を間違えて捉えていた私の反省です。
 間違いの原因は天衣無縫の語釈後半の

  「人柄が天真爛漫でかざりけのないさま」

 の部分から来ています。説明には天真爛漫とありますが、この言葉は無邪気
 なさまであるとか、思ったままの言葉や態度を表に出すさまです。
 生まれたままで素直で欠点のないような人ばかりならよいでしょうけれど、
 そうした人ばかりではありません(少なくとも私は違う)。そんな素直でな
 く欠点だらけの人間が思ったまま行動したら、周りはいい迷惑です。

 誰しも欠点の一つや二つ(や三つや四つ・・・)はあると思いますので、そ
 の欠点を自身が意識して表に出さないように自制する必要がある。欠点を服
 の破れだとすれば、この自制する心で破れを縫い繕うべきである。でも中に
 は破れを縫い繕うことが出来ない人もいて、そうした人の少々傍迷惑な振る
 舞いを指して

  天衣無縫な振る舞い

 と言うのだろうと勝手に解釈していました。ただこの場合でも「傍迷惑」の
 レベルはあまり大きくない、たとえば知人を見つけると嬉しくて、つい場違
 いな大きな声で「○○さ~ん」と呼びかけてしまうといったレベルの無邪気
 な「傍迷惑」な振る舞い限定ですが。流石に悪意があったら「天衣」という
 言葉は付かないでしょうから。

  「あるがまま(天衣)で、
   破れ目があってもこれを縫い繕わない(無縫)」

 これが「天衣無縫」という意味だと思っていたのです。
 でも考えてみれば、天人の衣である天衣は始めから破れたりしないから縫
 い繕う必要がないのでしょう。「破れる(欠点がある)」という考え自体
 が間違っていたんですね。

 人間は自分自身を尺度の基準として人や物事を測りますから、欠点だらけ
 で継ぎ当てだらけの私ならではの誤解釈でした。
 私みたいな間違いをしていた人、他にもいらっしゃるかな? なんて思っ
 てしまいましたが、どうでしょうね。

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