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【蜃気楼】(しんきろう)
 [史記(天官書)「海傍の蜃の気楼台を象かたどる」](「蜃」は大蛤。古く
 は、大蛤が吐く気によって空中に楼台などが現れると考えた)地表近くの気
 温が場所によって異なる時、空気の密度の違いによって光線が屈折するため
 地上の物体が空中に浮かんで見えたり、あるいは地面に反射するように見え
 たり、遠方の物体が近くに見えたりする現象。

 砂漠・海上、その他空気が局部的に、また層をなして、温度差をもつ時など
 に現れやすい。富山湾で春に見られるのが有名。蜃楼。貝楼。貝櫓(かいや
 ぐら)。空中楼閣。乾闥婆(けんだつば)城。海市(かいし)。
 ミラージュ。
 春の季語。
   《広辞苑・第七版》

 広辞苑の説明例として取り上げられたのは有名な富山湾の春の蜃気楼。辞書
 の語釈の最後が「春の季語」となっているのは、やはり富山湾で蜃気楼が見
 える時期からでしょうか。

 その春の季語を寒中のこの時期に採り上げたのは、私の住む紀伊半島の先っ
 ぽでは、蜃気楼の旬(?)がこの時期だからです。

 富山湾の蜃気楼は、暖かくなりつつ有る富山湾の春の空気の下に、北アルプ
 スの雪解けの冷たい水が流れ込んで、海面に接した空気に大きな温度勾配を
 作り出してしまうことによって生まれます。

 紀伊半島南部で見える蜃気楼はこれとは逆で、半島の沖合の海には暖流の黒
 潮が流れていて、そこに寒中の冷たい空気が流れ込んでくるため、空気は海
 面と接する部分で大きな温度勾配が生じ、その結果として蜃気楼が発生し、
 沖合の海を行き交う船が海面から浮き上がって、まるで空を飛んでいるよう
 に見えるのです(空を飛ぶといっても、海面からちょっと浮く程度なので、
 飛行機じゃなくて、ホバークラフトくらいのものですが)。

 生まれる時期とメカニズムには違いが有りますがどちらも海に現れる現象で
 すから、史記に書かれた伝説のとおり大蛤(おおはまぐり)が吐く息によっ
 て生まれたのかもしれません。もっとも、同じ大蛤の吐く息でも、春のそれ
 なら、大あくびによって吐かれるもので、寒中のそれは冬の朝に見られる白
 い息、そんな違いがあるかもしれません。

 海に蜃気楼が見え始めると富山には春が訪れ、海の蜃気楼が消えてしまう頃
 に紀伊半島には春が訪れます。本州を挟んだ北の海と南の海での、それぞれ
 の蜃気楼の見える季節の話でした。

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