日刊☆こよみのページ スクラップブック(PV , since 2008/7/8)
■萩の花見 明日からは十月。秋も深まり、秋の七草の咲く時期となりました。 近所をふらふらと歩き回ると七草の一つ、萩の花もあちこちで目にするよう になりました。 赤紫や白の小さな花が朝露を載せたたっぷりの緑の葉の間からのぞく萩の花 を見ると、ああ秋なんだなと思いますね。 「花見」と言えば、現在は誰しも桜の花を思い出すことでしょう。 それこそ花と言えば桜、この点には異論はありませんが、昔からずっとそう だったのかというと、どうもそうではなかったと言うのが本日の話です。 ◇万葉の花は萩 花見に限らず、現在は日本人にとって花と言えば桜と言うことになりますが、 万葉集の歌が詠まれた時代は、そうではなかったようです。 万葉集の歌に詠まれた植物は 160種類以上あるそうですが、その中でもっと も数の多いものが萩で、 142首。これは桜の三倍以上の数だそうです。 偉そうに 142首なんて書いていますが、もちろん自分で数えたわけではあり ません。よって、「だそうです」です。 ◇萩の花見 現在花見と言えば桜です。ところが万葉集にも桜と思われる花の歌が40首あ まり残されていますが、この中に花見を思わせる歌は一つもない・・そうで す(と再び、自分で調べたわけでないことを白状します)。 万葉集で「花見」という言葉が使われている花は二種類。一つは梅でもう一 つが萩です。 梅はこの当時、中国から輸入されたばかりの珍しい植物で貴族の庭園に植え られていただけのはずで、花見は当然この貴族の館での花見となります。 これに対して、萩の花見は野外へ出ての花見だったようです。 秋風は涼しくなりぬ馬並(な)めて いざ野に行かな芽子(はぎ)が花見に がこの花見を詠った歌。馬を並べて野外の萩の花を眺めに出かけたようです。 萩は背の低い木ですから、馬から眺めるとすると見下ろす形になったと思い ます。 それこそ朝露に濡れた草を踏み分けての花見だったことでしょう。 ◇萩は秋の七草? 秋の七草と言えば山上憶良の歌が有名で、現在の秋の七草とされる花はこの 憶良が数え上げた花です。もちろん萩の花も憶良の歌に読み込まれています。 では「?」は何? というと、萩は草かと言うことです。 「萩」の文字を見ると確かに草冠。この萩の文字は日本生まれの国字ですか ら、日本人は萩を「草の一種」と思っていたようです。 ちなみに、中国では「胡枝花」と書くそうです。 萩は植物学的には立派な木で、草ではありませんが、萩と言われて思い出す その姿は、盛大な葉っぱに隠れて幹(?)が全く見えませんから、木と言う より草だと思ったのかもしれませんね。 あ、でも正確に言えば山上憶良が間違ったとは言えません。だって憶良は七 草とは書いておりません。「秋の七種」と書いています。秋の七つの種類の 植物・・・なら草でも木でも良いわけですね。 万葉の頃に愛された萩の花の影が薄らぎ、萩の花見の習わしもすっかりが忘 れられてしまっていますが、萩の花の咲くこの季節にもう一度、万葉の昔に 思いをはせて、秋の花見などいかがでしょうか?
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