日刊☆こよみのページ スクラップブック(PV , since 2008/7/8)
■彼岸は「昼夜等分」? 『彼岸は昼夜等分にして、天地の気ひとしき時なり。 前暦の注する所、これに違えり』 これは江戸時代に作られた暦の一つ、宝暦暦(ほうりゃくれき)に書かれた 言葉です。 要するに、彼岸(の中日)は昼と夜の長さが同じ日だというのに、これまで の暦ではそうなっていなかったので直しましたといっているのです。 こう胸を張って宝暦暦は「彼岸の日付」をそれまでと違う時期にずらしまし た。宝暦暦方式(昼夜等分の日)では彼岸の中日はというと、今年はさしず め今日9/26あたりとなります。 皆さんも本日のメールマガジンに記載された日出没時刻をご覧になって頂け れば、なるほど今日明日が昼夜等分かとお解りになると思います。 ◇なぜ現在の秋分の日は「昼夜等分の日」でないのか もし地球が真空で、私たちの身長が0mで、太陽が今の 100倍も遠くにあった なら、秋分の日(春分の日も)は昼夜等分の日となります。 ところが現実には地球には空気があって、これによって地平線付近では大気 差(たいきさ)と呼ばれる浮き上がり現象が見られ、地平線に近い位置に見 える天体は実際にある位置より高い位置に見えます。厳密さを欠きますが、 蜃気楼現象のような大気現象だと考えて下さい。 さらに、高い山に登るとより遠くまで見えるように、高さによる水平線の後 退現象があり、これが眼高差(がんこうさ)と呼ばれます。人間の身長くら いでもこの後退現象は起こりますから、身長が0mでない私たちは、太陽がま だ水平線より下にあるうちに、これを見つけることが出来ます。 さらにさらに、今くらいの距離にあると太陽は星のような点ではなくて大き さを持った円盤に見えます。そして困ったことに、その大きさを持った円盤 にみえる太陽の「上の辺」が見かけの地平線に掛かった瞬間が日の出であり、 日の入りですから、この半径分だけ太陽の中心が水平線より下にある位置で 日の出、日の入りを迎えます。 これ以外にも、地球の大きさが影響する地平視差と呼ばれる現象もわずかな がらあり(この効果は、前述三つとは逆の効果)、こうしたものを総合して 考えると太陽は、こうした様々な効果がない場合より 0.9°早くに日の出を 迎え、 0.9°遅れて日の入りを迎えます。つまり 0.9° + 0.9° = 1.8° だけ昼が長く、夜が短くなります。地球の自転運動でこの高度角 1.8°分動 くのに要する時間は日本付近で秋分の頃という条件で計算するとおよそ8分。 この分だけ秋分の日は昼が長くなります。 実際に秋分の日の東京での日の出から日の入りまでの時間を計算すると 2008/9/23の東京における日出~日没間の時間 12時間 8分 となりますから、予想通りです。 秋が深まって、徐々に一日の日の長さが短くなっていって、秋分の日の昼の 時間である12時間 8分の「8 分」という余分な長さの分だけ日が短くなった 今日か明日あたりが、ちょうど昼夜等分の日となる訳です。 ◇再び「宝暦暦」 さて、胸を張って彼岸の中日をこの「昼夜等分」の日に移動した宝暦暦です が、この考えを踏襲したのは宝暦暦と次の寛政暦だけ。 その通用期間はわずか89年(1755~1843年)だけで、それ以後は彼岸の中日 は現在と同じ秋分の日となりました。 宝暦暦がその改暦にあたって誇らしく書いた「彼岸が昼夜等分となる暦」は あまり評判がよくなかったようです。 さてさて、暑さ寒さも彼岸までというように近頃はめっきり涼しくなりまし た。そして昼と夜の長さも今日あたりで逆転。一年を通してみた季節からい えば、夏の領域から冬の領域へと足を踏み出した感じですね。
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