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■暦から消えた十日分の日付
 今日は、2012/10/13、土曜日です。
 週末なので、ノンビリと暦のこぼれ話でも書こうかと、話の種を探した結果
 たどり着いたのが、暦から消えた十日分の日付の話でした。
 では、さっさと暦から消えた日付の話を始めましょう。

◇xx年前の今日の日付は?
 今日は、2012/10/13です。ではxx年前の今日の日付は、どうなるでしょう?
 馬鹿馬鹿しい話かとは思いますが、遡って確認してみましょう。

  1年前の日付は、2011/10/13。当たり前です。
  2年前の日付は、2010/10/13。これも当たり前。
   (中略)
  429年前の日付は、1583/10/13。これも当たり前。
  430年前の日付は、1582/10/ 2。これも当たり、お? なにか違う。

 暦といっても、いろいろな暦法がありますが、この話は一般に「西暦」と呼
 ばれて使われているグレゴリオ暦という暦(とその前のユリウス暦)での話
 です。グレゴリオ暦は、現在私たちが普通に使っている暦、新暦と呼ばれる
 暦のことです。

 日本において、グレゴリオ暦が使用されるようになったのは1873年のことで
 すから、上記の「430年前の日付は・・・」という話は、日本では成り立ち
 ませんが、暦の歴史としてグレゴリオ暦が作られ、使われていた国々での話
 としてお読み下さい。

◇グレゴリオ暦の誕生日?
 グレゴリオ暦として初めて記録された日付は、1582/10/15。
 何か中途半端な日付けですが、この日付がグレゴリオ暦によるグレゴリオ暦
 の誕生日だということが出来るでしょう。

 とすると、冒頭で書いた「430年前の日付は、1582/10/3」はグレゴリオ暦誕
 生以前の日付となります。グレゴリオ暦が生まれる前の日付というと、この
 日付を刻んだ暦は何か? この答えはユリウス暦です。

 グレゴリオ暦はユリウス暦に小修正を加えて出来た暦ですから、グレゴリオ
 暦から見るとユリウス暦は親のようなものでしょうか。

◇ユリウス暦からグレゴリオ暦へ
 グレゴリオ暦の前身のユリウス暦の特徴は、平年は365日で4年に1度のうる
 う日が2月末に挿入されて366日となるという、なじみのあるうるう日挿入方
 法です。

 このユリウス暦はあのジュリアス・シーザー(ユリウス・カエサル)が作ら
 せた暦で、ローマ帝国の版図で広く使われました。また暦そのもの仕組みが
 解りやすく、またそこそこ正確な暦でしたから、当時のヨーロッパでは事実
 上の標準暦となっていました。

 グレゴリウス暦はこのユリウス暦の改良版です。
 ユリウス暦の「4年に1度のうるう日」の挿入によって調整される1年の日数
 は、本当の1年の日数よりほんの少しだけ余分でした。

 余分とはいっても、その「余分」は128年でようやく1日分になるほど(1年
 当たり11分弱)のものでしたから、100年や200年の間はどうということのな
 い量でしたが、ユリウスが改暦してからおよそ1600年近くも使われ続けた結
 果、小さな差もつもり積もって、10日あまりの「余分」が出来てしまいまし
 た。10日も違ってくると、気になる人には気になる差です。

 この差が気になっていた人達の中には、中世ヨーロッパでは絶大な力を持っ
 ていたカトリック教会の人達がいました。教会内ではこの差の修正に関して
 長い間議論され、ローマ教皇グレゴリオ13世(在位期間:1572-1585年)がつ
 いに改暦によって、この問題を解決することを決断しました。

 ユリウス暦からグレゴリオ暦への改暦は、この10日の余分を取り去り、さら
 に将来に累積するだろう、年々の「余分」の量を小さくするための修正でし
 た。ちなみに、改暦後の暦が「グレゴリオ暦」と呼ばれるのは、改暦を命じ
 た人物がグレゴリオ13世だからです。

 暦の日付けの間に生まれる「余分」の量を小さくする工夫は、4年に1度のう
 るう日挿入を、400年のの間に3回だけ省略するというものでした。現在日本
 で使われている暦(新暦)はグレゴリオ暦と同じもので、1900年や2100年な
 どは4年に1度の周期にあたる年でも、うるう年でなく、平年になる年が生ま
 れました。

 ※グレゴリオ暦では西暦年が100で割り切れる年は平年となります。
  ただし、400で割り切れる年はうるう年となります。

 たまに閏年は必ず4年に1度巡ってくると思っている方もいるようですが、お
 間違えないように。もっとも、次にやってくるこうした年は2100年、つまり
 75年後のことなので、当分は気にする必要はありません。

◇十日の余分をどうするか?
 さて、うるう年挿入を400年に3回間引くことで、当面こうした1年の日数の
 「余分や不足」はなくなりました(3000年後に悩めばいい程度)。

 この「将来のための修正」はさほどの問題とはなりませんでした。なんとい
 っても1582年の改暦後、最初にこうした特別な年が巡ってくるのは100年以
 上も先の1700年だからです。当面、悩む必要がありません。ユリウス暦から
 グレゴリオ暦への改暦で悩みの種になったのは、将来の問題ではなく、過去
 との連続性でした。

 当時既に、ユリウス暦の誤差の累積によって10日の余分が生じていたわけで
 す。解りやすくいえば、暦の上では春分は「3/21」となっていましたが、本
 当の春分(天文学的な)はその10日前の「3/11」となっていて、差が生じて
 いたのです。

 ユリウス暦からグレゴリオ暦への改暦の際に、この「10日の余分」をどう扱
 うべきか? 実際に採られた対応は「余分な10日間を暦から削除する」とい
 うものでした。具体的な暦の日付は

  「1582/10/4 の翌日を 1582/10/15」

 とされたのです。
 ということは、1582年にユリウス暦からグレゴリオ暦に改暦した国では10/5
 から10/14の間の日付がなかったことになります。つまり、本日の10/13とい
 う日付は、1582年にはなかったことになります。

 ちなみに、1582年にはこの10日間が削除されていますから、この1年の日数
 は355日となりました。

 ※改暦の実施の時期については、国によって違っていて、全てが1582年に行
  われたわけではありません。

◇十日ずれていたユリウス暦で人々は困っていたか?
 この改暦の話となると時々

  「暦と季節が10日もずれてしまって、人々が困った」

 といったことを言ったり書いたりする人に出会うのですが、これは概ね間違
 いです。
 「概ね」と書いたのは、改暦を行った教会(ローマカトリック教会)の人達
 もいたということです。これに対して、困っていなかった人とは、民衆の大
 部分です。

 10日もずれていたのに困っていないというのは、おかしいと思うかもしれま
 せんが、具体的に考えていただくと、その理由が分かります。

 ある年急に10日ずれてしまったのであれば、暦の日付を目安に農作業などの
 予定を考えるひとには少々困ったことがあったかもしれませんが、この10日
 のずれは1600年かかってゆっくりと生まれたものです。人の一生が100年だ
 としても、その一生のうちで生まれるずれは 1日以下ですから、人生の中で
 このずれに気づく人はまずいないでしょう。

 現在の私たちの生活を考えてみても、暦の上の春分の日が天文学的な春分と
 何日か違っていても、「日常生活」に問題が発生するとは思えません。おそ
 らくは、そのずれに気付きさえしないでしょう。

 この「10日のずれ」が大きな問題だったのは一般の人々の生活ではなく、キ
 リスト教の祭礼の日付だったのです。

 キリスト教の祭礼の中でももっとも重要な祭礼は、十字架に掛けられたイエ
 スがキリストとして復活した日を記念する「復活祭(イースター)」です。
 この復活祭の日付は春分の日を基準として数え始めるルールがあるため、春
 分の日が正しくないと、復活祭の日付も正しいものでなくなるのです。

 自分たちが信奉するキリストの復活を祝う祭礼の日が、暦の不備によって正
 しい日に行われないということは、神に対する大変な冒涜であると宗教関係
 者(ローマ教皇も含む)は考えましたので、この不備をただすために行った
 のがグレゴリオ暦への改暦でした。

 この改暦がキリスト教の教会主導で行われたことは、グレゴリオ暦という暦
 の名前が、改暦を命じたローマ法王グレゴリウス13世の名に由来しているこ
 とを見てもわかります。
 今の時代に「10/4の翌日を10/15とする」何ていったら大変です。

  ・10/13締め切りの仕事はどうなる?
  ・銀行の利子はどうやって計算する?

 そんな問題が沢山発生しそうです。
 実際に1582年の改暦にもそうした問題は発生して大変だったようですが、そ
 こは「神様のため」という教会の力によって、有無を言わせず何とか改暦は
 やり遂げられ、現在に至っています。中世ヨーロッパのローマ教会のような
 絶大な権威があったればこそ、出来た改暦だともいえますね。

 ああ、改暦がされたのが私の生きている時代でなくて本当によかった。
 できれば、私の残された人生の間に改暦がないといいな。
 いや、こよみのページのかわうそとしては、改暦という貴重な経験する方が
 いいことなのか? 悩むところですね。

 【参考記事】
 ・グレゴリオ暦への改暦・1600年ぶりの大改革
  https://koyomi8.com/reki_doc/doc_0301.html

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