日刊☆こよみのページ スクラップブック(PV , since 2008/7/8)
■暦の上の「ある日」の話 今日は、ある日、あの時とはいつなのかという話です。 といわれても、何のことか解りませんよね。 話の始まりは、このコーナーではよくある「読者の方からのメール」です。 ご託を並べるよりも、まずこのメールの内容を御紹介して、話を続けます。 関係箇所の抜粋です。ちょっと長いですが、お付き合い下さい。 ------- ちゅいろさんからの3/24のメールから抜粋 -------- 明日は、習っていますお茶のお稽古で、利休忌というものを行います。 お茶を広めた千利休が、1591年2月28日自刃したことからお茶の世界では、 命日を新暦に換算した忌日3月頃に利休忌としてしのぶ特別な茶会を行いま す。お稽古ですから、必ずしも忌日ではなく皆さんが集まりやすい土日に 先生が設定して下さって行うことが多いです。 千利休さんが亡くなった天正19年2月28日旧暦を新暦にすると3月、4月、と なると聞いていたので深く考えもしていなかったのですが、こよみのペー ジの旧暦から新暦計算で試しに入力したところ新暦では4月21日となりまし た。お恥ずかしいですが、千利休の命日天正19年(1591年)2月28日は、現在 の新暦に換算すると正確には今年は何月何日となるのでしょうか? また、来年のネタとしてお願いです。 今年の2月28日の日刊こよみのページの「今日はなんの日」のコーナーでは 利休忌の記載が省略されていましたので来年は、歴史を再確認するととも に、日本の伝統の茶道を知ってもらいたいので是非、掲載と解説をお願い します。 ------- ここまで、ちゅいろさんからのメール --------- メールには「来年のネタとして」とありましたが、早々と使ってしまいまし た。本当は、問題の日を新暦に変換した結果の4/21、つまり昨日書くべきだ ったのかも知れませんが・・・忘れてました。 ◇「天正19年」はいつ? 日本の天正19年というと、現在は皆さんが慣れ親しんでいるでしょう西暦で は、1591年となります。ただ、この「年」の段階で既に問題が発生。もう少 し詳しく書けば 天正19年は西暦では1591~1592年です。 となります。なぜならば (1)天正19年1月1日 ~11月16日 → グレゴリオ暦では1591/1/25~12/31 (2)天正19年11月17日~12月29日 → 〃では1592/1/1 ~2/12 と、2つの年にまたがっているからです。 新暦とだけ書くと、これも誤解のもとになるので「グレゴリオ暦」としてみ ました。ちなみにこの日付の変換は日付単位の変換で、時差とかは考えてい ません。この当時は「世界時」なんていう概念はなかったので、時差を考え るとしたら・・・ローマ法王がいらっしゃるローマあたりを考えるんでしょ うか? 多分誰もそこまで問題にしないと思いますので、日付単位です。 余談ですが、「天正19(西暦1591)年」のように書くのは間違いではないで しょうかという御指摘を頂くことがあります。(2)のように、確かに1591 年には収まりきらない期間があるので、御指摘はもっともですが、 天正19年は西暦では1591~1592年です。 と毎回書くのは大変ですし、こう書いたところで「1591年と1592年のどちら が正しいのですか」という別の質問が来るだけでしょう。 だいたい違った暦の年月日の関係が完全に一致するはずがありません。そう なったら、それは「同じ暦」でしょうね・・・。 (年月日が同じでも暦法が違えば違う暦ですが、本日はそこまで深入りしな いことにします)。 ということで、双方の暦の「年」の大部分が一致するという大雑把な意味で 「天正19(西暦1591)年」と書いています。もちろん月日まで考える場合に は1592年も登場しますから、問題無いと考えています。 ◇「天正19年2月28日」はいつ? 年の話に手間取りましたが、次は月日まで考えた日付の話です。 天正19年の暦はというと、日本では「宣明暦」という暦法で計算された暦が 使われていたはずです。この頃の暦は、その計算方法なども正確にわかって いますし、実際に使われた日付なども確認出来る資料もあるので、この日が 今から「何日前」かということを知る(計算する)ことが可能です。答えは 155960日前 (今日は2018/4/22) です。暦の年や月といった単位の長さは結構まちまちですが、「日」という 単位は、余りに自明なためか、誤解の入り込む余地が少ないので、他の暦と の比較などに使うには便利です(それでも時差の問題とか、何を基準に日を 区切るかと行った問題は残りますけれど)。 ということで、「天正19年2月28日」はいつかという問題に関しては、はっ きりしました。問題解決 !? ◇利休忌はいつ? さて日付の話は、もとになった「利休忌」の日付の話です。 普通は旧暦の月日の季節は、その月日から1月遅らせた新暦の日付の時期の 季節に近いと考えられるので、これを「月遅れ」といって、旧暦の日付を簡 易に新暦の日付に対応させる場合に使います。 天正19年2月28日の利休忌を新暦の3月28日前後に行うというのは、この月遅 れの考え方によるものです。おそらく月遅れの考え方で私達にもっともなじ み深いのは、お盆。お盆は本来は7月15日の行事で、これを月遅れの盆とし て新暦8月15日に行うのが一般化しています。 月遅れの考え方は、簡便であり、もとになった旧暦の日付の「日」の方は残 りますので解りやすい。また月遅れの新暦の日付は平均的には元となった旧 暦の日付の季節に近い季節に落ち着くので、季節感を優先したい行事などに は適しています。 話の発端となった「利休忌」は、月遅れにしても28日という日付は変わりま せん。昔から月命日という考え方もありますから、月が異なっても日付が同 じなら、あまり抵抗はないでしょうし、既に書いたとおり「平均的」には、 旧暦の季節に近い季節に「利休忌」が行われるので便利な方法です。 ただ、天正19年2月28日は新暦(グレゴリオ暦)に変換すると月遅れの3/28 よりさらに1ヶ月ほど遅い4/21になってしまい、メールを下さったちゅいろ さんは驚かれているようですが、これは旧暦の暦月が現在の新暦の暦月のよ うに、毎年ほぼ同じ季節にあるものだという誤解から生まれているのだと思 います。旧暦の暦月は、同じ暦月であっても季節に対して最大1ヶ月ほど移 動してしまうためです。 天正19(1591)年付近の旧暦の2月28日日付を新暦に直すと、 1591/4/21 , 1592/4/10 , 1593/3/30 , 1594/4/18 , 1595/4/7 となります。月遅れに近く、3/30というときもあれば問題の年のように4/21 になってしまうこともあります。月遅れは旧暦の季節にあうと云っても、元 となる旧暦の月日自体が正確に季節に連動していないので如何ともしがたい のです。 以上が、旧暦と新暦の日付の変換という観点から見た「利休忌はいつ?」の 話でした。 ◇最後にもう一度「利休忌はいつ?」 さてさて、ここまで重箱の隅をつついてきましたが「忌日」とか「記念日」 というのは、暦の日付の変換だけの話では片付くものではありません。 何か、覚えておきたいこと、あるいは思い出したいことを記録すると云うこ とも、暦の日付の役割です。 使う暦が異なっているとしても、暦の日付が2月28日とか、28日となる度に 利休の命日はこの日付だったなと思い出し、その人物を偲ぶということが大 切なことなのだと思います。 暦は季節のめぐりや天体の運行を予測する役割もありますが、目に見えない 時の経過を記録し、流れ去る時の中に目に見える形の印をつけると云った役 割もあります。 本日は「利休忌」から始まった『暦の上の「ある日」の話』でした。 暦にはいろいろな役割、いろいろな面があるのだなと、改めて感じさせてく れた「利休忌」でした。
日刊☆こよみのページ スクラップブック