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■春と夏の境に咲く藤の花(2018) 『明治の作家斎藤緑雨が「青皇の春と、赤帝の夏と、 行会の天(ゆきあいのそら)に咲くものなれば、藤は雲の紫なり」 と書いている。』 という一文を、お天気博士として知られる倉嶋厚さんの「季節の366日話 題事典」という本を読んでいて見つけました。 暦の話には度々登場する中国古代の五行説によれば、森羅万象はすべて五行 (木・火・土・金・水)の性質の組み合わせで表せるものとされました。森 羅万象なので、色や季節についてもしかり。ではどのように表されているか というと、 木(青・春)、火(赤・夏)、土(黄・土用)、 金(白・秋)、水(黒・冬) 春と青の組み合わせは、人生で云えば春の時期ともいえる十代後半~二十代 前半(?)の時代を「青春」と言い表すようなところでまだ残っています。 ちなみに私はというと、もう白秋の年代ですね・・・ 話がそれてしまいました。本題に戻ります。 閑話休題 五行説の表す季節と色を踏まえて緑雨は「青皇の春と、赤帝の夏」と書いた のです。そしてその春と夏の間、春と夏が行き会う季節に藤は花をつけるこ とから、藤のあの紫の色は春と夏の色、青と赤が混ざり合った色だと言って います。 ちなみに、藤には「二季草(ふたきぐさ)」という別名も有るとか。 この別名も春と夏、二つの季節に咲く花と言う意味でしょう。 ◇藤の花の開花時期 私の住むあたりでは、四月の下旬頃になると長い房となって咲く藤の花を見 掛けるようになりますが、日本各地での開花時期はいつ頃でしょうか。 全国の気象台が毎春、桜の開花時期を発表していることは皆さん、よくご存 じのことでしょう。気象庁ではこうした生物季節の観測を行っており、いく つかの植物については、地域ごとにその開花時期をまとめています。藤もそ うした植物の一つ(藤の場合は、日本各地に普通に見られる「ノダフジ」に ついてまとめられています)。 前出の倉嶋さんの著作には、気象庁の生物資料によるノダフジの開花平均日 も載っていました。それをそのまま使わせて頂くと、 宮崎 4/09、 京都 4/23、 東京 4/23、 長野 5/04 盛岡 5/22、 青森 5/22、 函館 5/30 暦の上の夏の始まりは立夏の日、今年(2018年)の立夏は 5/5ですから、この 時期に咲く藤の花は、まさに「春と夏の境に咲く花」なのです。 さて、この「春と夏の境に咲く花」の今年の状況はどうなっているでしょう か。気象庁の生物季節観測の情報で調べて見ました。その結果は以下のとお りです(「ノダフジ」の開花日)。 宮崎 4/03、 京都 4/06、 東京 ----、 長野 4/19 盛岡 5/12* 青森 5/18*、 函館 5/21* *の日付は2017年のものです。東北、北海道などではまだ今年は藤が咲いて いないようなので、最新の日付は去年のものでした。それ以外は2018年のも のです。 情報源は、気象庁の「生物季節観測の情報」です Webサイト → http://www.data.jma.go.jp/sakura/data/index.html 残念だったのは、東京の記録が無かったこと。東京では藤の開花日の観測が 現在は為されていないようです。 ◇身近な植物、藤 古来から、藤の蔓や皮は丈夫な綱としたり、繊維をとりだして荒栲(あらた え、「荒妙」とも書く)と呼ばれる目の粗い織物としたりして使われた有用 な植物。また、その長く垂れ下がった花房の形は実った稲穂を連想させると いうことから豊作を約束するものと考えられた、日本人にとってはなじみの 深い植物です。 この昔からなじみの深い藤は、現在でもノダフジやヤマフジといった種類が 全国各地に自生しています。 ちょっと郊外に出かける機会が有れば、この春と夏の境に咲く昔なじみの藤 の花を探してみてください。
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