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■「衣替え」の日付について
 10月に入って、一気に気温が下がったようです。
 気温が一気に下がって10月とくれば、衣替えですよね。
 10月に入って衣替えしましたとおっしゃる方が読者の方々の中にもいらっし
 ゃるのではないでしょうか。

 今日は10/3と言うことで、衣替えの話には少々出遅れた感があるのですが、
 「衣替えの日」について、なぜ6月と10月が現在では一般的になったのかと
 いうことについて疑問に思われた方がいらっしゃるようなので、私なりに考
 えたことを書いてみることにしました。

◇衣替え(ころもがえ)
 既に書いたとおり、現在の衣替えは大体 6/1と10/1の年二回という場合が多
 いようです。もちろん、北は北海道から南は沖縄県までと細長い日本ですか
 ら、それぞれの場所での気温の差は大きく、全部一律というわけではなく、
 地域ごとに衣更えの時期は前後します。

 この衣替えという行事は平安時代から宮中に伝わった行事で4/1~9/末日ま
 では夏の衣、その他は冬の衣となります。この日の変化は服装だけに止まら
 ず調度品なども夏用と冬用の切り替えが行われたそうです。
 どちらも衣替えの日ですが、区別する場合10/1の衣替えを「後の衣替え」と
 呼ばれました。

 衣替えは元は「更衣(こうい)」と呼ばれていましたが、この更衣と言う言
 葉は宮中の女官の役職(天皇の衣服の世話をする)名であったため、区別を
 するため「衣替え」と呼び変えられるようになりました。

 ここで登場した暦月はもちろんどちらも、旧暦によるもの(当時はそれしか
 無かった暦ですから当然ですけど)です。旧暦では暦月を3ヶ月毎に区切っ
 て、これを季節に対応させていました。

  春:一~三月 ,夏:四~六月 ,秋:七~九月 ,冬:十~十二月

 この区切りから考えると、どうやら平安時代の衣替えはこの季節と暦月の関
 係に則ったものであることが解ります。四月は夏の初め、十月は冬の初めで
 すから、夏と冬の始まりの日(4/1,10/1)に夏冬の調度、衣装を替えたとい
 うことでしょう。

 平安時代の貴族の服装と言えば「十二単」。十二単という服装からも分かる
 とおり、当時の服装は幾重にも重ね着するもので、気温の変化に併せて下着
 などで温度調整を行ったようです。

◇細分化された衣替え
 木綿の衣服の普及などにより、気温に併せた服の変化も多様化し、それに伴
 って衣替えも細分化されていきました。
 江戸時代の武士の衣替えは 4回。日付は以下のように決まっていました。

  4/ 1・・・(2021/ 5/12):袷小袖(あわせこそで)
  5/ 5・・・( 〃 / 6/14):単衣帷子麻布(ひとえかたびらあさぬの)
  9/ 1・・・( 〃 /10/06):袷小袖(あわせこそで)
  9/ 9・・・( 〃 /10/14):綿入れ

 最初の日付は旧暦の日付、()内はこれを新暦に変換したものです。更に後ろ
 はこの日からの衣服。9/1~9/8の 8日間しかない短い期間もありましたが、
 そんなにこまかくなくても良いような気がするのですが5/5(端午の節供)
 と9/9(重陽の節供)という日付を見ると、節目となる節供を季節の区切り
 としたかったのでしょう。

 4/1が残ったのは平安時代からの伝統を残したものでしょうが、では10/1は
 と言われると・・・。10/1が9/1へと変わった理由については、いい考えが
 浮かびませんが、当時の服装等を考えると、10/1では少々寒すぎたのかも知
 れません。ちなみに、旧暦の10/1は今年の新暦に換算すると

  10/1・・・(2021/11/05)

 寒がりな私にはとても旧暦の10/1まで夏服では耐えられそうもないので、伝
 統とはいえ、旧暦10/1にこだわらなかった江戸時代の何方かに感謝です。

◇現在は 6月と10月
 江戸時代は結構忙しかった衣替えですが、明治時代からは和装から洋装への
 変化などもあって、温度調整が容易なったことなどから衣替えは年二回に簡
 略化され、新暦の6月と10月に明治政府の官庁が行ったことから、他の企業
 等もこれにならって定着したものです。

 6月と10月と云う時期は、季節から見ると江戸時代の端午の節供と重陽の節
 供の日に行われた衣替えに合わせたもののようです。それと、多少は平安の
 昔の10/1と云う日付も意識したものなのかも知れません。

 残念ながら、現段階では現在の6/1,10/1という衣替えの日付がどのようにし
 て決まったのかについては、あやふやな推論程度の説明しか出来ないのです
 が、このことが気になって気になって夜も眠れないという方(いるかな?)
 の考察の参考にでもしていただければと思い、書いてみました。
 参考になったかも、怪しいですけど。

◇風物詩
 現在の衣替えは、地域によって多少の違いがありますし、制服などが無い場
 合は特に衣替えを意識することも無くなりましたが、学生さんや、制服のあ
 る職業の方々の装いが一斉に変わるのは、季節の風物詩としては素敵です。

 ちなみに、現在の私の職場には、この季節の風物詩になる素敵な「衣替え」
 があります。ただし、衣替えの時期は10/1ではなくて、半月程後になるので
 すが。うう、寒い。早く来ないかな、衣替えの日。

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