日刊☆こよみのページ スクラップブック(PV , since 2008/7/8)
■月齢神話? 『昔々、東方の島国に月の満ち欠けに従って育つ植物がありました。 新月の日の夕暮れに芽吹き、三日月の頃に葉を伸ばし始めます。 上弦の月頃に蕾をつけて満月の夜に花を咲かせます。 下弦の月の頃には白い実を実らせて、 夜明けの東の空に細い月が見える頃にその実は地に落ちて 次の芽吹きの時である新月の日をまつのだそうです。 月の満ち欠けとともに齢を重ね、花を咲かせるこの植物を人々は何時しか 「月齢花」と呼ぶようになりました。』 以上、月齢神話より(←全部嘘っぱち、かわうそのでっち上げです!) 本日の話のタイトルとして「月齢神話」という言葉が浮かんだもので、つい うっかり(?)悪のりしてしまいました。済みません。 では、ここからはでっち上げではない、「月齢神話」の話です。 ◇月齢神話? 「月齢神話」ってなに? と先ず疑問が湧かれたことと思います。 それもそのはず、そんな言葉はありません。その点ではこの言葉も私の創作 物。「でっち上げ」とまではいいませんが、まあ、似たようなものです。 ただし中身に関しては本当の話。 日刊☆こよみのページの姉妹メールマガジンに お月様のお知らせメール https://www.mag2.com/m/0001281490 が有りますが、そちらのメールマガジンの読者(さちよ様)から月齢に関す る次のようなご質問を頂きました(以下、関連部分のみ抜粋)。 > 質問が あります。 >「満月の瞬間」なのに、 > 月齢は どうして 15.0 に ならないのでしょうか? > > 読み物のネタが切れた時にでも、 > 教えていただければ幸いです。 万年ネタ不足に悩んでいる日刊☆こよみのページへの優しいご配慮、ありが とうございます。ではお言葉に甘えて。 このメールマガジンでも、Web こよみのページでも何度も取り上げてきたこ となのですが、月齢は単に直前の新月の瞬間からの経過日数に過ぎず、月の 満ち欠けを正確に表すものではないので、満月だからといって15.0になると いったものではありません。 ただし、新月から新月までの間隔は29.5日前後で「ほぼ一定」であることと 満月はこの朔望周期のこれまた「ほぼ真ん中」にあるという関係性はあるこ とから 満月の瞬間の月齢は、ほぼほぼ(「ほぼ」の2乗・・・)15辺りである。 ということに過ぎません。 月齢なんて、所詮そんなものなのですが、今回御質問をくださったさちよ様 のように、月齢が月の満ち欠けの状態を正確に表す数値であると言った誤解 というか、固定した観念を持っている方が多いようで、こよみのページには 度々こうした質問が寄せられます。 あまり度々そうした質問を頂くので、月齢には何か人を引きつける魔力でも あるのか・・・なんて思いつつ、私はその月齢の魔力の源泉を「月齢神話」 と勝手に呼ぶようになったのでした。 まあ、普通の人が日常で接する月に関係する数値と言えば「月齢」くらいで しょうから、「月齢神話」が生まれるのも仕方がないのでしょうね。 ◇月齢に関する基本の確認 ・月齢とは何を表す数字? まずは、最も基本的であり最も重要な話。月齢が意味するものの話です。 月齢がどうやって求められるのかを言葉で書けば 「月齢とは直前の新月の瞬間からの経過日数」 となります。解ったようで解らない説明ですが、じっくり考えれば難しいこ とを云っているわけではありません。 たとえば、たまたま今が新月だったとします。すると、明日の同時刻は新月 から1日が経過したわけですから、「直前の新月からの経過日数は1日」で 月齢 1.0 となります。では明後日の同時刻は、明明後日の・・・。以下同文。 ・月齢に小数点が付くのはなぜ? 前の説明で「明日」ではなく「明日の同時刻」とくどい書き方をした理由が この疑問を解く鍵です。 日常でも「今日は新月の日」といった使い方をしますが、こうした使い方の 場合は新月の時刻なんて意識しないのが普通です。 ですが、月齢計算の起点になるのは新月の日付ではなく「新月となる瞬間」 なのです。例えばこれを書いている時点での直前の新月の瞬間は、 日本時 2021年10月 6日 20時 5分 (= 2021年10月 6.84日) という具合です。 では今日(11月3日)の正午は直前の新月の瞬間から (11/3 12時00分) - (10/6 20時05分) = 27日と15時間55分 経過しています。15時55分を24時間で割って、日を単位とした数字に直せば 0.66日ですから、月齢は 27.66日となります。 このメールマガジンに記載された11/3日正午の月齢は 27.7。小数点1位ま で表示しているだけのことで、同じ結果です。 月齢に小数点が付くことで月齢とは何か特別な難しい計算、例えば月の軌道 計算しないといけないもの、といった誤解が生まれ、それが月齢神話成立の 一要因になっているのかも知れませんが、単に時分秒を日付単位で表してい るってだけのことでした。 ・今日の月齢って、いつの月齢? 前の説明でおわかりになると思いますが、月齢計算には日付だけでなく時刻 まで必要になります。その点から考えると、 「今日の月齢は××」 という表現は不正確なことになります。「今日の△時の月齢は××」という べきでしょう。 ですがそれではあまりにくどくて煩雑。それで、普通は「△時」を省略して しまうわけです。 問題は、この省略された「△時」がいつか。月齢の定義自体にはこの△をい つにするかといった決まりはありませんので、あとは使う人次第というのが 実情です。 私の場合は、もっぱらその日の代表値として「正午」を用いています。他に は午前零時や、世界時零時に当たる午前9時などが「△」として多く使われ るようです。 △がいつかの共通の決め事はありませんが、きちんとしたデータを提供して いるところなら、△はいつかをどこかに明示していると思います。 ・一日の間で月齢は、変化しないの? そんなことはありません。 既に説明したとおりで、刻々と変わります。 本日正午の月齢が 27.66 、ではその 5時間後はといえば 27.66 + 5時間 / 24時間 = 27.66 + 0.21 ≒ 27.9 のようになります。ちなみに、Web こよみのページのトップページの月齢は そのページを表示している日付だけでなく、時刻も考慮して表示しています ので、月齢カレンダー(正午の月齢)とは一寸違っています。あ、もちろん 正午にトップページを表示したら、同じになりますけど。 ◇月齢はいつ頃から使われるようになった? 月齢が使われるようになった理由は、明治改暦で旧暦を廃止したことです。 旧暦時代であれば、その日の日付を見ればおよその月の満ち欠けの具合がわ かりましたし、海の干満などもこれと連動していますから、潮の満ち干によ って、漁の好適時期が変化してしまう漁師さんなどにとっては、月の満ち欠 けの目安になるものがないのは不便。 そうした声が上がって、では旧暦の日付の代用となる、月の満ち欠けの目安 になるものとして使われるようになったのが月齢です。 月の満ち欠けの目安という数値は他にもありますが単純に経過時間(日数) だけで計算出来る月齢の簡易さが、月齢が普及した大きな要因でしょう。 所詮、「月の満ち欠けの目安」に過ぎない数値ですから、目安のためにわざ わざ難しい計算はしたくないですものね。 ◇月の四相の月齢 月の四相(新月・上弦半月・満月・下弦半月)は、現在は太陽と月の位置関 係で決められています。太陽と月の黄道座標での経度差が 0°,90°,180°, 270°となる瞬間がそれです。 では、この月の四相と月齢の関係はというと、次のようになります。 新月 月齢 平均 0.0 上弦 月齢 平均 7.38, 最小 6.59, 最大 8.23 満月 月齢 平均 14.76, 最小 13.90, 最大 15.61 下弦 月齢 平均 22.15, 最小 21.43, 最大 22.83 周期 月齢 平均 29.53, 最小 29.27, 最大 29.83 (新月~新月間隔) この数値は、1901~2100年の200年間にある2473回の月の朔望周期に関して 調べた結果です。満月の月齢一つとっても、13.90~15.61の幅があります。 ご覧のとおり、月齢はあくまでも月の満ち欠けの「目安」の数値だと言うこ とをお忘れ無く。 くれぐれも、月齢を何か特別な数値と誤解して「月齢神話」のダークサイド に落ちないように注意してくださいね。
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