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■暦の上の季節の長さ(2021)
 本日は立冬。
 立冬の話は昨日書いてしまった(先食いというやつです)ので、二日続きで
 同じ話を書くわけにも行きません。でも立冬の日、そのまま過ぎさせてしま
 うのはもったいないと、考えた結果思いついたのが、立冬を含む四立で区切
 られた季節の長さ比較なんていいかも? ということで、本日は季節の日数
 比較の話を書いてみることにしました。

◇四立(しりゅう)と季節
 「暦の上での冬の始まり」といえば立冬があります。
 立冬は「冬立つ」という言葉。「立つ」は「出立」と同じ立つで始まりとい
 う意味です。
 立冬と同じく他の季節にもそれぞれが始まる日に立春、立夏、立秋がありま
 す。この「立つ」四つをまとめて四立(しりゅう)と呼びます。

 四立はそれぞれ二十四節気の一つで、冬至・春分・夏至・秋分のそれぞれ中
 間に置かれています。

◇四季の日数
 さて、暦の上での季節の始まりが四立だとすると、それぞれの「立」の間の
 日数が暦の上での日数となります。普通に考えれば四季のそれぞれの長さは
 同じで、一年の 1/4づつとなると思われますが、さてどうでしょう。
 今年(2021年)の立春から来年(2022年)の立春までの間の日数を確かめて
 みましょう。ではまずはそれぞれの「立」の日付(と時刻)を調べてみます。

  立春 2021/02/03(24時)・・・ 春 90.7日(24.8%)
  立夏 2021/05/05(16時)・・・ 夏 94.0日(25.7%)
  立秋 2021/08/07(16時)・・・ 秋 91.9日(25.2%)
  立冬 2021/11/07(14時)・・・ 冬 88.7日(24.3%)
  立春 2022/02/04( 6時)・・ 一年365.3日

 後ろに「春 90.7日(24.8%)」とあるのは、立春から立夏までの期間が90.7
 日で、この期間が 1年の24.8% であるという意味です。
 四季が均等な長さだとするならそれぞれの長さは 1/4の25% で91.3日となる
 はずですが違っています。
 最長は夏で94.0日、最短は冬の88.7日。その差は 5.3日あります。
 均等ではありませんでした。

◇四季の長さが異なる理由
 四季の長さが異なる理由は、現在の二十四節気の計算方式にあります。
 二十四節気は元々そのままでは暦の周期と季節の周期がずれてしまう太陰暦
 を、季節につなぎ止める方法として考え出されたものです。この二十四節気
 が暦に導入されることによって、暦の一年が季節の一年と大きくずれること
 が無くなり(といっても年毎に見れば一月程度のずれは発生します)、太陰
 暦に太陽暦の要素が加わって、太陰太陽暦になりました。この暦が現在いわ
 ゆる「旧暦」と呼ばれる暦です。

 さて、この二十四節気ですがその計算方式は大きく二つの方式に分けること
 が出来ます。一つは恒気(こうき)あるいは平気(へいき)と呼ばれる方式
 と、定気(ていき)あるいは実気(じっき)と呼ばれる方式です。
 前者の恒気は日数によって二十四節気を分割する方式、後者の定気は角度に
 よって分割する方式です。

 時間による分割方式というのはどういうものかと言えば、一年の日数を単純
 に24分割して二十四節気の長さを決める方式です。

  一年の長さ÷ 24 = 365.3 ÷ 24 ≒ 15.2日

 と一定の長さになります。今日の話題である四季それぞれの長さはこの15.2
 日の 6倍(1/4 = 6/24)の91.3日で季節毎に変化することがありません。
 これが時間による分割法、恒気法です。

 これに対してもう一つ、角度によって二十四節気を決定する方式では、太陽
 の通り道である黄道の全周 360°を24等分した15°の角度を太陽が移動する
 間を一つの節気の長さとします。この方式でもきちんと24等分出来ているの
 で問題ないはずですが、一つ問題がありました。それは太陽の動きが常に一
 定の速さでは無いということです。

 分かりやすく言うと、道路に等間隔に目印を付けて、その道路を車で走って
 それぞれの目印通過の時間を計るようなものです。車が同じ速度で走れば目
 印と目印の間を走り抜けるのに要する時間は同じはずですが、この車がある
 ときは時速60km/hで走り、あるときは50km/hで走っているようなものなので
 す(一定の速さで移動しているわけではないということ)。これが角度によ
 って二十四節気を決定する定気法の一つの問題点です。

◇現在の計算方式は定気法
 現在の二十四節気の計算方式は角度によって分割した「定気法」です。この
 ため、既に説明したとおり二十四節気の節気の期間の長さが長いところと短
 いところが存在するのです。

 こうなってしまう理由は何かというと、地球の軌道が円軌道でない(楕円軌
 道)と言うことです。地球と太陽の距離がもっとも近くなる近日点を通過す
 る瞬間にもっとも動きが速く、反対に地球と太陽の距離が遠くなる遠日点通
 過の瞬間がもっとも動きが遅くなります。

 この動きが一番早くなる近日点通過はいつ頃かというとこれは1月の上旬。
 動きが遅くなる遠日点通過は7月の上旬です。このため 1月前後の期間であ
 る冬の期間が短くなり、 7月前後の期間である夏の期間が長くなるのです。

 現在の暦でこの角度による定気法が採用されているのは、江戸時代の終わり
 頃に作られた日本の最後の太陰太陽暦である天保暦がこの方式を採用してい
 たからです。つまりそれをそのまま踏襲したわけです。

 実は、日本で使われた太陰太陽暦でこの定気法を採用したのはこの天保暦だ
 けです。それ以前はずっと恒気法でした。
 私としては、ずーっと恒気法を使ってくれたら、こんな「暦の上の季節」の
 日数のアンバランスなんて起こらなくてよかったと思うのですが。
 今日はちょっとアンバランスな暦の上の季節の長さの話しでした。

◇おまけ
 とある本とその本に書かれた論を鵜呑みにしたまた別の本に

 「19世紀以降の旧暦では夏の期間に閏月が入ることが増え、夏の期間が長く
  なったのは地球温暖化を旧暦が予測しているためだ」

 といったすごい話が書いてありました。
 確かに19世紀半ば以降の旧暦では夏に閏月が入ることが増え、逆に冬の期間
 の閏月の挿入が減っています。こうなると、夏の期間とされる旧暦五~七月
 が3ヶ月でなく4ヶ月になる年(例えば閏六月が追加されるなど)が増えるた
 め、夏の期間が延びているように見えます。
 こうしたことは、それ以前の暦には見られない特徴なので

  すわ、地球温暖化の証拠!

 と飛びついちゃった結果です。
 でも、夏の期間に閏月が増えた理由は地球温暖化の話なんか持ち出すまでも
 なく、暦の仕組みだけで説明できます。だって、閏月の挿入を決定するため
 の基本的な判断材料、二十四節気の計算方式として、最初に定気法を用いた
 暦が天保暦で、現在のいわゆる旧暦計算はこの天保暦の計算方式を踏襲した
 ものだからです。

 そして、天保暦の計算方式で計算された暦が使われ始めた年は1844年。つま
 り19世紀半ば頃から。だから、19世紀半ばから夏の期間の閏月が増えただけ
 の話。地球温暖化の話なんか持ち出すまでもないことでした。

 ちなみに、暦の上の季節の長さの不均一という問題は、暦としては欠点とし
 て数えられるものの一つで、天保暦への改暦において、二十四節気を定気法
 に変えたことには、批判も多い問題です(私も批判的な立場)。
 その「問題」故に、理由もよく分からないまま変な妄説を言い立てる人が出
 てきてしまうことになったりするんです。困ったもんだな・・・。

 ちなみに、こんな困った本ですが、確実に私の本なんかより沢山売れている
 と思われます。困ったもんだな・・・というより、こっちはちょっぴり悔し
 い? 羨ましい? かな(←浅ましい発言でした)。

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