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■地球は一日に一回転とちょっと自転する話 「地球はその自転運動によって一日に一回転します」 小学校か、中学校かは忘れましたが、理科の時間にこんな話を習ったことは 有りませんか。 何時習ったかも憶えていない程なので、正確にはどんな表現だったかを思い 出すことは出来ませんが、大体こんな感じだったのではないでしょうか。 (今はどんな風に教えているのでしょうか? 現役の理科の先生がこのメー ルマガジンをお読みでしたら、ご教授をお願いします。) さて、正確な言葉の表現は忘れてしまった大人の私たちも、冒頭の説明を聞 けば、大概はうなづいて下さることと思います。さすがに、 「いやいや、太陽が地球の周りを一日に一回巡っているのだ」 という説を信奉してる方がいらっしゃるとすれば、流石に今の時代では珍し い存在でしょう。今回は残念ですが、そうした珍しい方にはお引き取り願っ て、それ以外のごく普通の常識で生きている皆さんと、1日に地球が何回転 しているかを考えてみましょう。 ◇地球の自転速度 手近にありました2022年の天文年鑑の天文基礎データのページを開いて地球 の自転速度の数字を拾ってみました 7.292115e-5 rad/s これは、一秒間に地球がどれだけの角度を自転するかを表した数字なのです が、日常では見慣れない数値表現や角度の単位なので、もう少しなじみのあ る表現に改めてみます。 7.292115e-5 = 0.00007292115 rad/s = 57.29577951°/s →→ 7.292115e-5 rad/s = 0.004178074°/s つまり、地球は一秒間に 0.004178074°回転するということです。 やー、こう書くと実に判りやすいですね・・・でもないか? ではもう一声判りやすく考えましょう。 1 日は 60×60×24 = 86400秒ですから、1日に地球が回転する角度は 0.004178074 × 86400 = 360.985605 ° と計算出来ます。この数字は地球が一日に何度回転するかを表した数字とい うです。 一回転は 360°ですから、この計算結果は、地球が一日に一回転とちょっと だけ回転することを示し散るわけです。 よく分かりました。目出度し目出度し。 ?ちょっとまて。なんかおかしくない? ◇一日に一回転ちょっと? めでたしめでたしと思ったのに、目出度くないことが一つ。 大人の常識である「地球は自転運動によって一日に一回転する」と違うとこ ろがありますね。そう、 地球は一日に一回転と「ちょっと」回転する なんだよ、この「ちょっと」って。 なんでこうなるの? 何かおかしくない? 地球は一日に一回転するんじゃなかった? 「?」が沢山並んだところで、引きずらずに答えに迫りましょう。 何がおかしいかというと、地球が一日に一回転するという時の「一日」の基 準が違うのです。 ◇「一日」ってどんな長さ 一日の長さというのは何かというと、基本的には或る場所で太陽が真南に来 た(南中した)瞬間から次に南中するまでの長さです。 この南中と南中の間隔は実際には季節により若干異なるので、現在はそれを 平均したものを一日と考えていますが、基本的な考え方としては変わってい ません。間違っては いません。こうして決められた一日は「太陽日」と呼ばれます。この太陽日 が普通に私たちが使う「一日」の長さです。 これとよく似ているのですが、太陽の代わりに星座の星々を使って同じよう にある星が南中してから次に南中するまでの間隔を測って一日を決めること が出来ます。太陽を基準とした一日を太陽日と呼ぶように、星座の星々(恒 星)を使って決めた一日は「恒星日」と呼ばれます。 さて、太陽か恒星かの違いはあってもどちらも地球が一回自転する時間によ って決められた太陽日と恒星日ですので、同じもののように思えるのですが 一太陽日と一恒星日はその長さが異なります。一太陽日を24時間とすると、 一恒星日の長さは 23時間56分 4.09053秒 (天文年鑑 2022) これを見ると 24時間より大体 4分ほど短いことになります。 なぜ太陽日と恒星日の長さの違いは、基準とした天体の違いによります。恒 星は、遙か遠くにあって事実上見かけの位置が動かない星ですが太陽は違う のです。だって、地球は太陽の周りを「一年で一周」してるんだもん。 一年で一周するということは、一日でもわずかですが地球と太陽の位置関係 は変化することになります。一年は何日(太陽日)かというと365.2422日。 360°をこの日数で割ると、一日の平均の変化量が求まります。 360 / 365.2422 ≒ 0.986(°) 一日経つと太陽はこの角度の分だけ移動してしまうため、地球は 360°では なくて 360° + 0.986°だけ回転します。 ちょっとだけ余分に廻っています。 ちなみに、遙か遠くにあって地球の公転によっても見える位置のほとんど変 化しない恒星に対してはこのちょっと余分な回転は必要ないので、恒星を基 準にして測った一日(恒星日)は、太陽日より少しだけ短い(約 4分)短く なるのでした。 さあ、この記事を読んだからにはもう、「地球はその自転運動によって一日 に一回転します」なんて言えませんね! 明日からは皆さん 「地球はその自転運動によって一日に一回転とちょっとだけ回転します」 と言うことにしましょう。 もちろん、周囲の人々の冷たい視線を受け止める覚悟も準備も万全に下上で お願いしますね。 以上、「地球は一日に一回転とちょっと自転する話」でした。
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