日刊☆こよみのページ スクラップブック(PV , since 2008/7/8)
■計算法から見た「最も早い・最も遅い」イースターの日 本日の話は、いつかは書いておこうかなと思う内容に関係した御質問をいた だいたので、よい機会だと思って、書いてみましたが、多少込み入った話で すし、興味のない方には迷惑な話かも知れませんので、そんな方は読み飛ば してください(と、いきなりの弱気)。 まずは、頂いた御質問から ----------------------------------- ◇eshimada様からのメール(4/18のメール) Subject: 復活祭の日付 恐れ入ります。 [最も遅い日付 4/25]の出し方がどうしても判りません。 (以下省略) ----------------------------------- 御質問の内容はWeb こよみのページの「暦と天文の雑学」の一話 イースターと二つの日付 http://koyomi8.com/reki_doc/doc_0305.htm の最後に余談として付け加えた、イースターの日付の最も早い日、遅い日に 関連したもののようです。該当箇所には 最も早い日付 3/22 最も遅い日付 4/25 とある、こちらの部分ですね。 この数字は、イースター(復活祭)の日付の計算方式から得られます。 ◇イースターの日付の計算規則 イースターの日付の計算方式は、4世紀に開かれたニケア公会議と16世紀に 開かれたトレント公会議で決められています(トレント公会議の決議によっ てユリウス暦からゴレゴリオ暦への改暦が始まった)。 どちらの規則でも基本は 『復活祭は、「春分の日」以後の満月の日の後の最初の日曜日』 です。トレント公会議ではユリウス暦の欠点を補って、より天文学的な春分 に近い春分の日を基にしたイースターの計算をすることが論じられたもので 基本は同じ。ただ、その改良のために実際のイースターの計算の手順は複雑 になってしまい、きちんと説明するのは結構大事なので、今回はシンプルな ユリウス暦を用いた旧来の方式(とはいえ、現在も東方正教会系はこちらの 方式で計算しています)で説明させて頂きます。 ◇黄金数とエパクトと満月の日 旧来の方式は、経過日数の計算はユリウス暦の規則を用い、春分の日は3/21 (この日付ももちろんユリウス暦による)に固定して考えます。 次に満月の日付を計算する必要があるのですが、ここでいう満月とは、平均 朔望周期をベースに考えた3/22の年毎の月齢に基づいて、月齢14となる日を 割り出す方式で得たものです(と言うことで、現在の天文学的満月とは結構 違っています)。 3/22の月齢は月の朔望周期と太陽年との関係であるメトン周期を用いて簡易 的に求めたもので、この値は「ユリウスエパクト」と呼ばれます。 ユリウスエパクトは19年毎に同じ値が繰り返される(メトン周期がもとです から)ものなので、ある年がこの19年周期の何年目にあたるかが解れば自動 的に求まります(表を作っておけばよい)。因みに、その年が19年周期の何 年目にあたるかを示した1~19の数は「黄金数」と呼ばれます。 黄金数は西暦年を19で割った際の余りに1を加えた数となります。 因みに、黄金数とユリウスエパクトの関係は次のとおり。 (黄金数:エパクト数) 1:0 , 2:11, 3:22, 4:3, 5:14, 6:25, 7:6, 8:17, 9:28, 10:9, 11:20, 12:1, 13:12, 14:23, 15:4, 16:15, 17:26, 18:7, 19:18 ユリウスエパクトが解れば、満月の日(月齢14の日)を求めることが出来る 様になります。もちろん日曜日も割り出さなければなりませんが、こちらは 経過日数が解れば7日毎に返すものなので計算は容易です(と言うことで割 愛します)。 ◇最も早いイースターの日 ・・・ 3/22 イースターの計算方式から考えると「最も早い日」は 「ユリウスエパクトが15以下で最も大きな数あり、ここから求められた月齢 14となる日が土曜日の場合」 が条件となります。ユリウスエパクト表では黄金数16の年のエパクトが15な ので、これに該当する年は3/21が満月(=春分の日)となります。そしてこ の日が土曜日に当たる年があれば、それが最も早いイースターの日となりま す。 ◇最も遅いイースターの日 ・・・ 4/25 最も遅い日は、ユリウスエパクトが16以上で最も小さい数であり、これによ って求められた月齢14の日が日曜日にあたる場合、この日の1週間後がイース ターとなるのでこれが最も遅いイースターの日となります。 ユリウスエパクト表には16に該当する年はないので、次の17を探すと黄金数 8の年がこれにあたります。エパクト17から月齢14の日を求めると、この日 は4/18。この日が日曜日であれば、イースターは更に1週間後の日曜日にな るので、この日が最も遅いイースターの日付となります。 ◇まとめ? ざっと、こんな感じでいかがでしょうか? なお、ここではユリウス暦の日付での計算をしております。グレゴリオ暦で の日付ではありませんので、その点はご注意を。 グレゴリオ暦によるイースターも基本的な考え方は同じですが、使用するエ パクト表はユリウス暦を用いるものと違って、年代によって異なるものが必 要になるなど、手順はより複雑になるため、今回の説明では割愛させて頂き ます。 本日(2022/4/24)は、東方正教会系のイースターということもあって、頂い た御質問に答える形でこんな話を書いてみました。 イースターの日付の計算方式を見ていると、昔の人が複雑な計算をいかに単 純化して計算し易いようにしようかと苦心した跡がよく判ります。 計算機の無い時代にこんな計算を、沢山しなければならなかったことは 「ご愁傷様です」 としかいいようがないですね。 因みに暦を作るための作業は「コンプトゥス」と呼ばれまして、これが現在 の「コンピュータ」の語源となっています。 現代社会は、暦計算の御蔭で成り立っているのかも? ってのは言い過ぎで しょうかね。 なお、暦と天文の雑学の「イースターと二つの日付」については、ちょっと だけ、この辺りの経緯を書き加えておこうかと思います。ただ、本気で書い たらこれだけで、すごく長くなることは確実なので、「イースターの日付の 計算」については、独立した解説記事を書くべきだろうと思います。 (いつ書くつもり???)
日刊☆こよみのページ スクラップブック