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■月建(げっけん)の話
 唐突ですが、本日は「月建」というものの話です。
 既に暦のこぼれ話でも何度か書いたとおり、十二支は元々暦の月の順番を表
 す記号(数詞)でした。十二支と暦月の関係は次のようになっています。

  子:十一月、丑:十二月、寅:正月、卯:二月、・・・亥:十月

 旧暦時代の暦には、月の始めの頁には

  正月小 建壬寅

 のように書かれていました。上の例ではこの月は正月で小の月(正月小)。
 そして月の六十干支は壬寅(建壬寅)という意味です。後者の「壬寅」につ
 いてですが、十二支の「寅」の方はどの年でも正月なら寅で変化しませんが
 その前についた十干の方はそれぞれの暦月により5種類あります。正月の例
 でいうと

  丙・戊・庚・壬・甲

 の5つのどれかとなりますが、これは年の干支との関係で決まります。例に
 挙げた、正月が壬寅となるのは、その年が「丁か壬の年」です。
 さて、ここまでで「正月小 建壬寅」が、この暦月が正月で小の月であるこ
 とと六十干支では壬寅の月であることがわかりました。

 ちなみに、例の正月の「壬寅」の「寅」はその年がいつであっても正月であ
 れば必ず寅であることから「建+寅」の月で

  建寅月 = 正月

 となり、建寅月は正月の異称の一つとしても使われるようになりました(同
 様に、建卯月なら二月の異称という具合になります)。とここまで説明して
 きましたが、この説明の中で度々登場しながら説明されていない文字が一つ
 あります。それは「建」。これって何を表しているのでしょうか。
 (お、やっと本題)

◇「建」は「尾指す(おざす)」
 建壬寅の「建」は「おざす」とも読みます。この「おざす」は「尾指す」の
 こと。何かの「尾」が指し示す方向という意味です。

 ではこの「尾」は何の尾なのかというとそれは北斗七星です。尾というか、
 北斗七星を柄杓(ひしゃく)ととらえたときの柄の部分です(現在の星座で
 いうと北斗七星は「おおぐま座」の主要部で、柄の部分は熊の尻尾にあたり
 ます。おっと「尾指す」でぴったりじゃないか?)。

 さてこの北斗七星ですが、古代の中国では天に一年中見えて北斗七星は時を
 司る重要な星座と考えていました。そしてまた、時を司る北斗七星の「柄」
 に当たる部分がどの方向を向いているかで、季節の変化を測るのに利用して
 いました。暦は季節の動きを表すものでもありますので、ある暦月には北斗
 七星の柄がどちらを向くのかということを

 その柄がどちらを向いているかを「建(おざす)」と呼びました。この方式
 によると旧正月の時期は、「寅の方位」(十二支は方位を表す場合にも使わ
 れます)に北斗七星の柄が向くため

  寅の方位におざす月 ⇒ 建寅月

 とはいえ、北斗七星の柄の向きは日周運動のために1日ほぼ360°向きを変
 えてしまいますので、日没後、星が見え始める時間帯に観測して、その時の
 柄の向きを記録していたようです(ちなみに真下を向いたときが「子」とな
 ります)。

 「建寅月」は日没に見え始めた北斗七星の柄が「寅の方角」を向く季節の暦
 月といった意味だったのでした。

 ただ、残念なことに季節の変化を知る手がかりとして用いられた北斗七星の
 柄の向きですが、長い年月の間に天文学でいうところの「歳差運動」という
 ものの影響で変化してしまうので、今では「建寅月」といったところで、北
 斗七星の柄は寅の方角を向いてはくれません。

 そんなわけで、暦月と北斗七星を結びつけていた「月建」は、今は暦の上に
 書かれた文字としての意味しか持たなくなってしまっています。

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