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■よくある質問・旧暦の月の大小の並びについて
 本日は、旧暦に関しての「よくある質問」である「旧暦の月の大小の並び」
 についての話です。

 よくある質問への回答みたいなものなので、こちらも「よくある回答」では
 有るので、どこかで読んだなという内容にになってしまいますが、ご容赦く
 ださい。

◇旧暦月の日数
 現在「旧暦」と呼ばれている暦は太陰太陽暦の一種で暦月の最初の日(「一
 日」=「朔日」)は新月(「朔」ともいいます)の瞬間を含む日と決まって
 います。ですから月の最初の日は必ず新月の日となります。

 月の満ち欠けの周期、朔望周期(さくぼうしゅうき)の平均は約29.5306日。
 小数点以下 1桁までで見ると、29.5日となります。
 29.5日と考えると、29日の小の月と30日の大の月を

  小・大・小・大・・・

 と大小の月を交互に並べると巧い具合に29.5日の月の平均の満ち欠けの周期
 を表すことが出来ます。細かく見た時の朔望周期の端数

  29.5306日 - 29.5日 = 0.0306日

 については、この端数が積み重なって 1日の長さになる 32~33ヶ月ごとに

  小・《大・大》・小・大・・・

 のように大の月が二回連続するようにすると解決できます。
 現在使っている新暦(グレゴリオ暦)も実際の太陽年の長さと暦年の日数の
 長さの差の端数を閏日として処理するのと同じです。

 もし朔望周期が29.5日であればこんな端数調整は不要なのですが、実際には
 端数が存在してしまうので、ずっと大小の月が交互に入れるだけでは済みま
 せんが、それでもこの調整のために大小の月の並びが変化するのは3年に1度
 程度で済むので、大小月の並びは比較的単純でわかりやすいものになるはず
 です。

 目出度し・・・といいたいのですが現実の旧暦の大小月の並び方は、これほ
 ど単純ではありません。

◇実例に見る旧暦の月の大小の並び
 「現実では単純でない」、旧暦の月の大小の並びについて実例を見てみまし
 ょう(大の月を◎、小の月を●で表します)。

 旧暦2022年 ◎●◎●◎◎●◎●◎●◎
 旧暦2023年 ●◎●◎●◎●◎◎●◎●◎
 旧暦2024年 ●◎●●◎●◎◎●◎◎●

 旧暦2022年・・・という表現は少々違和感がありますが、西暦の 1/1以降に
 やってきた旧暦の一年を西暦で表したもだと考えてください。

 ご覧の通り、「大・大」だけでなく「小・小」もあり、この3年の間にはあ
 りませんが「大・大・大」なんて云うものもあります(実は大・大・大・大
 まであります)。あまり規則的な並びという感じじゃありませんね。

◇旧暦の朔は平均の周期の朔か、実際の朔か?
 前段で説明した平均の月の朔望周期で朔(新月の瞬間)を決める暦を平朔の
 暦と呼びます(平朔=平均の朔望周期の朔)。正確な観測を行う技術が不十
 分であった時代の太陰暦はこの平朔の暦でした。

 天体観測の技術が向上してくると、個々の月の朔望周期はこの平均より短か
 ったり長かったりすることがわかってきました。実際の月の朔望周期を個別
 に見て行くとその長さは約29.27~29.83日で変化するのです。

 この程度の差は実際の生活にはさして害はありませんが空を見上げると、ち
 ょっとした問題が発生することがあります。それは、日食です。

 ご存じのとおり日食は新月(朔)の時にしか起こらない天文現象です。その
 上、日食はとっても目立つ天文現象でもあります。
 太陰暦は暦月の始め、朔日はその名の通り朔の日のはずなのに、朔にしか起
 こらない日食がその朔日でない日、前日の晦日や翌日の二日に見られること
 があると

  この暦って、間違ってんじゃないの?

 ということになります。
 この暦月の朔日以外に日食が起こらないようにするためには、平均の周期で
 朔を求める平朔の暦ではなくて、実際の朔の瞬間を暦の朔日にするという暦
 が必要となります。この実際の朔の瞬間(とは云っても計算で求めるのです
 が)を使って作られた暦を定朔の暦と云います。

 現在、旧暦と呼ばれている暦は定朔の暦ですので、暦月の長さを決める朔と
 朔の間隔は、その時々で異なっており、その影響で大の月が連続したり、逆
 に小の月が連続したりと云ったことが起こってしまうのです。

◇なぜ「実際の朔」にこだわるのか?
 中国やその影響を受けた日本では日食の日はお役所は物忌みの日として、執
 務を取りやめる風習がありました(もちろん昔の話で、現在はそんなことは
 ありません。残念だな?)。

 お役所の執務日に影響を与えるとなると、日食が暦の朔日以外に起こること
 は日食なんかに興味の無い人の社会生活にも影響が及びます。

 庶民の迷惑だけならまだしもですが、暦月の朔日以外に日食が起こるなんて
 云うことは、支配者にとっては更に大きな問題をはらんでいます。
 中国や日本では国の君主を「天子」と呼びました。この天子ですが

 【天子】(てんし)
  1.(天帝の子の意)天命を受けて人民を治める者。国の君主。
  2.天皇。
   《広辞苑・第七版》

 という意味があります。1 の意味を見ると「天帝の子」と有ります。つまり
 天子は地上の支配者であるばかりでなくて、天の支配者でも有るのです。
 天の支配者が作る暦が天で起こる現象(この場合は日食)をはずすなんて云
 うことが、有ってはならない。となると実際の朔、定朔の暦にこだわらざる
 を得ないことになります。

◇定朔の暦の弊害、「四大三小」
 定朔の暦が正式な暦として採用されたのは、中国では唐の時代。西暦 619年
 のことでした。

 これによって、日食が晦日や二日の日に起こることは無くなりましたが、そ
 の影響としてそれまでは比較的単純だった大小の月の並びが狂ってしまうよ
 うになり、大の月が 4回連続する「四大」や小の月が 3回連続する「三小」
 などのイレギュラーな大小の並びが生まれてしまうようになりました。

 ただし、四大や三小はかなり極端な例で希にしか起こりません。ちなみに最
 後の四大は1831年に、三小は1885年で、それ以後は現在(2023年)に至るま
 で出現していません。

  ※次の四大は 2044~2045年の間に出現します。
   三小は調べた2070年まで一度も現れませんでした。

 これほど極端でない三大などの例なら数年に一度は発生します(前回の三大
 は2018~2019の間、次回は2025年です)。

 こうしたやや異常と思える大小の月の連続の登場には、一定の法則といえる
 ような規則性がなくて、それこそ「暦を作ってみるまでわからない」といっ
 た具合になっています。

 「日食は朔日に起こるもの」

 このこだわりが、旧暦から分かりやすさ、規則性といった利便性を奪ってし
 まったようです。
 「天子様」が作る暦だったのだから、面倒くさくともしかたがないけどね。

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