日刊☆こよみのページ スクラップブック(PV , since 2008/7/8)
■メートル法公布記念日・雑感 本日はメートル法公布記念日ということですので、1メートルの話です。 昔々は、それぞれの国によって長さや重さの単位はまちまちでした。今でも その影響は色濃く残っていて、日本でも建物のサイズや土地の広さなどには 今も尺貫法の単位が顔を出しますし、ゴルフやフットボールなどでは距離の 単位はヤードだったりします。 生活のほとんどが一つの国の中で完結するような生活であれば、それぞれの 国が独自の単位を使っていてもさほど問題にはなりませんが、国をまたぐ活 動が当たり前となってくると、国毎にまちまちの単位を使っていては面倒で たまりません。 そうした不都合を無くそうと、長さと質量の単位を統一しようと1875年にメ ートル条約という国際条約が締結されました。その後、この条約をすべての 物理単位に拡大して改正された条約が1921年に結ばれました。本日のメート ル法公布記念日はこの条約に対応した日本の改正度量衡法が公布されひを記 念したものです。 1921年にせよ、その前の1875年にせよ、今から100年とちょっと前といった 程度の話ですが、たった100年ちょっと前の世界では、長さや質量やその他 の基本的な物理量の単位が国毎にまちまちだったというのは、驚きです。 ◇「メートル」はフランス生まれ 1875年のメートル法条約の締結を訴えたのがフランスでした。このことから なんとなく予想がついてしまいますが、現在のメートルの元ははフランス生 まれです。フランスが提唱したメートルの基準は地球でした。 地球の北極から赤道までの子午線の長さの1000万分の1 というのが 1メートルの長さです。 フランスでは、フランス革命後の憲法制定議会において、 永久的・絶対的な度量衡の基準を定める という決議がなされたことから、「永久的・絶対的な」長さの単位として地 球を基準とした 1メートルが考え出されました。 長さの基準をそれまで多くの国が採用してきた、王様の腕の長さだとか、足 のサイズといった普遍的とはいえないものから、地球という少なくとも地球 に住む私たちから見れば普遍的なものへと切り替えたのです。 もちろん慣れ親しんだ、生活に密着した単位の切り替えにはどの国も抵抗が あるでしょうけれど、その辺は単に慣れの問題。 「よその国の王様の腕の長さ」を基準にするよりはずっとましだったと思い ます。 ◇地球の子午線の長さ? 「 1メートルは北極から赤道までの子午線の長さの1000万分の 1」と簡単に 書きましたが、ここで問題が一つ。それは、 地球の子午線の長さってどれだけあるの? それがわからないことです。子午線の長さとは簡単に言えば北極と南極を結 ぶ地球一周の長さです(「北極から赤道まで」の距離の 4倍の長さとなりま す)。地球という「球体」の外周の長さということも出来ます。地球の外周 と言ってしまえばそれまでですが、その辺のボールの外周を測るのとはわけ が違いますからこれは大変。 そこで、地球は球なのだからその一部を測れば全周を推定することが出来る と考え、その「一部」を実測することになりました。 このとき使われた「地球の一部」はフランス北部のダンケルクとスペインの バルセロナの間の距離でした。 この二つの都市の位置はほぼ同じ経度(同一の子午線)に有り、それぞれの 天文緯度も ダンケルク 北緯 51° 2′10.5″ バルセロナ 北緯 41°21′44.8″ と解っていましたから、この間の距離を測れば地球の全周が求まるというこ とで、この間の1075kmに及ぶ三角測量をドゥランブルとメシェンという二人 の学者が中心となって実施し、その結果から地球の子午線長を求めました。 さて、こうして求められた北極から赤道までの子午線長の1000万分の 1が 1 メートルとなったわけですので、地球の外周は 1000万メートル× 4 = 4 万キロメートル となります。 実際にこの測量に従事した学者の一人メシェンは、この測量ではまだ十分で はないとしてさらに測量を継続しようとしましたが、途中で黄熱病に倒れ、 実現されずに終わりました。 現在は地球は球体ではないことも解っていますし、メシェンらが測ろうとし た北極から赤道までの距離も1000万メートルではなかった(10001.97キロメ ートル=10001970メートル)。 もし、メシェンがさらに測量を続けていたら、「1メートル」は今より少し だけ長いものになっていたかもしれません(0.2mmくらい)。 ちなみに、この地球の全周の長さを知る(すなわち、地球の大きさを知る) という問題は、19世紀当時の多くの人を引き付けたものでした。日本におい てこの問題に正面から立ち向かったのが有名な伊能忠敬。 多くの人を驚かせた精緻な伊能忠敬の地図は、実は忠敬の子午線1度の正確な 長さを知りたいという思いから生まれたものだったのでした。 地球の大きさを知りたいというメシェンや忠敬の熱意と努力が、当たり前に 使っている1メートルという単位の元になっているんですね。 ※現在のSI単位系での、1mは「メートルは、1/299792458 秒の時間に光が真 空中を伝わる行程の長さ」と定義されています。
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