日刊☆こよみのページ スクラップブック(PV , since 2008/7/8)
■「三隣亡」は「三輪宝」? 本日は三隣亡(さんりんぼう)という暦注の話です。 三隣亡は棟上げ、屋立て、土起こし等は大凶とされています。よく知られた 建築に関わる大悪日です。 この日、こうした禁忌を犯すと向こう三軒両隣まで焼き滅ぼされてしまうと か。大層恐ろしい暦注です。 このため、建築業に携わる方々には大変気になる暦注で、そうした方々向け のカレンダーや手帳には必ずこの日が記載されているとか。 さて、この恐ろしい三隣亡とはなんでしょうか? ◇三隣亡の撰日(せんじつ)法 三隣亡は、二十四節気の節で区切る節切りの月というものと、日の十二支で 決められる暦注です。二十四節気はこの「節」と「中」というものが、交互 に並んでいます。節の始まりは立春なので、立春、啓蟄、清明と二十四節気 を一つ跳ばしに拾い出して行けば二十四節気の節がわかります。 こうして拾い出した節は、その順番に 立春 ・・・ 正月節 啓蟄 ・・・ 二月節 (中略) 小寒 ・・・ 十二月節 と呼びます。節切りの月とはこの各節となる日から次の節の直前までを一月 と数えます。この節切りの月と日の干支によってその日取りを決めるという 暦注は多いですから、三隣亡は暦注の王道を行っているといえます。まあ、 逆の言い方をすれば、ありふれた暦注だともいえますが。 では、実際の三隣亡はどうやって決められているかというと節切りの月毎に 亥・寅・午の三つの干支を割り振っただけの単純なものです。 その関係をまとめると次のようになります。 一・四・七・十月 亥(い) の日 二・五・八・十一月 寅(とら)の日 三・六・九・十二月 午(うま)の日 本日は、八月節であう白露の後、九月節である寒露の前なので、節切りの月 では八月に当たります。そして日の干支は壬寅(みずのえ とら)。十二支 の部分は「寅」です。 前述した節切りの月と十二支の組み合わせを見ると「八月の寅の日」は確か に三隣亡になることがわかります。至って簡単な規則です。 節切りの月の日数は約30日前後で、十二支はもちろん12で、これが循環して いますから、節切りの月一月の間に、特定の十二支の日は2~3回やってきま すから、三隣亡もこの回数だけ出現するわけです。 時折三隣亡が、終わってすぐにまた三隣亡が出現するようなことがあるので すが、これはその間で節切りの月が変わったためです。たとえば本日10/5は 三隣亡で、普通であれば次の三隣亡は12日後の10/17日頃のはずですが実際 は4日後の10/9。これは、その間に九月節である寒露(10/8)が入って節切り の月が変化するためです。10/9の三隣亡は、九月の午の日の三隣亡というこ とです。 ◇三隣亡の流行は江戸時代の末期? 三隣亡は今では大変ポピュラーな暦注なのですが、江戸時代の暦などにその 姿を見ることはありません。 三隣亡が広がり始めたのは、江戸時代の末頃からといわれます。 このころに流行を始めた三隣亡が、明治の改暦による「暦注の大絶滅」以後、 それまでの由緒正しい暦注が滅んだ後にどこの馬の骨かわからない様だった この三隣亡が、「おばけ暦」と呼ばれる非合法(?)の暦に取り入れられて 次第に人々に知られるようになったといわれています。 この辺の経緯は、現在隆盛を誇る暦注である六曜とよく似ています。 ◇三隣亡は、「三輪宝」? 三隣亡の出自ははっきりしません。なぜならこれは歴とした暦には書かれて いなかったマイナーな暦注だったからです。古い雑書などにも三隣亡という 文字自体は見つかりません。 ただ、古い雑書などにはこの「三隣亡」に相当する日取りの日に「三輪宝」 という暦注が書かれています。三輪宝は「さんりんぽう」と読まれます。 そしておもしろいのはこの暦注は、 屋立てよし。蔵立てよし。 と注されていること。つまり建築に関する吉日だったのです。三隣亡とは全 く逆の暦注です。調べてみても三隣亡は無く、古い暦関係の文献にはその日 取りの日には三輪宝の文字だけしか登場しないことから、暦研究の大家であ る故岡田芳朗氏は 江戸時代の暦の編者が、「屋立てよし」を「屋立てあし」と一文字間 違えて書いてしまい、それが書き写されてしまい、いつの間にか定着 してしまったのではないか。さらに「屋立てあし」には、目出度い文 字である三輪宝はおかしいので、音がよく似ていて悪い意味にとれる 「三隣亡」に置き換えられたのではないか。 という推理をなさっています。一見、そんな馬鹿なと思える話ですが元々暦 注の意味などはこじつけ以外の何者でもありませんので、こうしたこじつけ が行われた可能性は結構高いのではないか? 私は、この岡田説が真実に近 いのではないかと考えています。 「三隣亡」じゃなくて、本当は「三輪宝」。 「屋立てあし」じゃなくて、「屋立てよし」。 いいと思いますがね? ◇たちの悪い迷信に惑わされないで 大体、家を建てるとかビルを建てるなどと言うことは、普通の人には一生に 一度の一大事ですから、こんな話をされれば迷信とわかっていても、わざわ ざこんな日にしなくともいいだろうと思って避けたくなるのは人情。この人 情につけ込んで脅かすのが迷信の困ったところその1。 さらに、自分が信じていなくとも「向こう三軒両隣を滅ぼす」なんて言う話 だとご近所さんでこの迷信を信じる人がいたら、以後の近所付き合いが難し くなってしまいます。周り全部が信じないようにならないと自分一人の意見 を押し通しにくいというのが迷信の困ったところその2。 そういえば山形などでは、この日家を建てると 向こう三軒両隣は滅びて、その家だけが栄える なんていわれるそうで、そんな話をされたらますます「近所付き合い」を考 えると家を建てられない日になっちゃいますよね。 こうなるとまるで、脅し。たちが悪いこと甚だしい。 こうしたたちの悪い暦注は無視するに限ると思いますがいかが? 自分が家を建てるときだけじゃなくて、近所に家を建てる人についても気に しないようにするのが一番。 たちの悪い暦注の脅しに屈しないようにしましょう! でも、どうしても気になってしまうという場合は 「三隣亡」もとは目出度い「三輪宝」 と心の中で唱えれば、嫌な気分も払拭出来るかも?
日刊☆こよみのページ スクラップブック