日刊☆こよみのページ スクラップブック(PV , since 2008/7/8)
■旧暦の「夏」は長い? (その2)
一日、間の空いてしまった『旧暦の「夏」は長い?』の第2回目です。
前回は、現在の旧暦(おかしな表現ですが)の計算方式では、およそ3年に
一度現れる、臨時の月である閏月が夏の時期に多く現れるために、見かけ上
旧暦上の夏の季節(旧暦の四・五・六月)が見かけ上、他の季節より長くな
ってしまう、という話でした。
前回示した数値を再掲すると旧暦の上での各季節の長さは
春 25.02% , 夏 25.76% , 秋 24.78% , 冬 24.44%
(1901~2050年の間の旧暦の日数から求めた数値)
となります。
四季の長さが均等なら、この数字はどれも25%となるはずですが、ごらんの
とおり、わずかではありますが、ばらつきがあります。もっとも長いのが夏
で、短いのが冬。その差は
1.32%(日数で表せば約 4.8日)
です。わずか「1%と少し」ですが、確かに旧暦の「夏」は長いということが
出来るでしょう(よかった、看板が偽りにならなくて)。
これも前回示した数値ですが、改めて1901~2050年の間に現れる閏月の回数
を示します。
【閏月の出現回数】
一月 0回 , 二月 7回 , 三月 7回 (春 14回)
四月 8回 , 五月 13回 , 六月 8回 (夏 29回)
七月 6回 , 八月 3回 , 九月 1回 (秋 10回)
十月 1回 , 十一月 1回 , 十二月 0回 (冬 2回)
例えば、「五月 13回」とは、閏五月が13回出現していることを示していま
す。また、行末の()の中は、旧暦の上でそれぞれの季節に属すると考え
られる3つの暦月に登場する閏月の数を合計したものです。これを見ると夏
の期間に29回と圧倒的に多く、閏月が出現していることが解ります。
これだけ多く、余分な(?)月である閏月が出現するのですから、夏の長
さが他の季節より長くなってしまうのも無理もありません。
でも、どうして閏月の出現にこのようなばらつきが生じるのでしょう。
◇閏月が生まれる仕組み(旧暦の仕組み)
旧暦の暦月は、新月の日から次の新月の日の前日までで区切られます。しか
しこれだけでは、この区切られた暦月が何月になるのかは決まりません。暦
月が何月になるかは、その暦月に含まれる二十四節気の「中気」と呼ばれる
次に示す12の節気で決まります。
【二十四節気の中気】
雨水(一月)、 春分(二月)、 穀雨(三月)
小満(四月)、 夏至(五月)、 大暑(六月)
処暑(七月)、 秋分(八月)、 霜降(九月)
小雪(十月)、 冬至(十一月)、大寒(十二月)
例えば、今日(2025/7/6)が旧暦では何月に当たるかを例として考えると
1.今日を含む「新月の日と次の新月の日の前日の期間」は?
2025/6/25~7/24
2.1の期間に含まれる中気は?
2025/7/22 大暑(六月中気)
大暑は「六月中気」とよばれる中気ですので、上記の1,2を組み合わせると
今日は旧暦では六月に属する日であることが解ります(6/25から数えて12日
目ですので、旧暦六月十二日となります)。
さてここで、旧暦六月が終わる7/24の翌日、7/25日は何月になるかを考えて
みましょう。
1.2025/7/25を含む「新月の日と次の新月の日の前日の期間」は?
2025/7/25~8/22
2.1の期間に含まれる中気は?
ありません(あれれ?)
1は問題ありませんが、2の「ありません」はどうしたことでしょう。
六月中気である大暑の次の中気は処暑(七月中気)で、これが1の期間に含
まれていれば問題なく旧暦七月となるのですが、今年の処暑の日付けを計算
すると8/23となり、1の期間に含まれないので、この期間は「中気無し」と
なってしまいます。
旧暦では、中気が暦月の名前を付ける役割を担っていますので、この中気が
含まれない暦月は「名無しの月」となってしまいます。こうした場合は、直
前の月と同じ名前を用いることになり、元々の月(「本月」といいます)と
区別するために「閏」を付けて呼ぶことになります。
※参考記事
旧暦の月の決め方 https://koyomi8.com/reki_doc/doc_0101.html
つまり、例として採り上げた2025/7/25は、旧暦では「閏六月」に含まれる
日となるのでした。このように中気と中気の間にすっぽりとはまり込んでし
まうような暦月が、閏月になるのです。
◇夏に閏月が多い理由
さてここで、中気と中気の間隔がどこでも同じであれば、閏月が出現する頻
度は、各季節(各暦月)でほぼ均一になるはずなのですが、この中気と中気
の間隔は同じではありません。
もうお解りかも知れませんが、この間隔は夏には広く、冬には狭いのです。
こうした間隔の変化が生まれる理由が、地球と太陽の距離の変化です。
現在の二十四節気は、天球上を太陽が一年かけて移動する道筋、黄道を角度
で均等に分け、この工場の均等な点を太陽が通過する瞬間の日時で決定され
ています(この角度による分割方を「定気法(ていきほう)」といいます)。
「太陽が黄道を移動する」というのは実は、地球上の私たちから見る他場合
の表現で、太陽から見れば、太陽の周りを地球が公転運動している様子だと
いえます。
ここで地球の公転軌道を考えると、これは円軌道ではなく楕円軌道です。こ
のため、地球と太陽の距離は地球の軌道上の位置によって変化します。地球
と太陽の距離が一番遠い軌道上の点を遠日点(えんじつてん)、一番近い点
を近日点(きんじつてん)といい、その点を通過する日を遠日点通過日、近
日点通過日といいます。この二つの日の日付けは
近日点通過日 1/4頃
遠日点通過日 7/4頃
※年によってわずかに変化します。
また、長期間で考えるとゆっくりと変化してゆきます。
なのです。ということで、前回の記事の冒頭に書いた
「いや~、今日はずい分冷えるなと思ったら今日(2025/7/4)は
地球が1年で一番太陽から遠ざかる日」
の一文が結びつきます(ようやく)。
現在の二十四節気は黄道を角度で等間隔に分割した点を太陽が通過する日時
として求めるのですが、地球の軌道が楕円軌道であるため、地球の軌道上の
位置によって、この分割点を通過する間隔が変化してしまいます(「ケプラ
ーの第二法則」)。
ケプラーの第二法則(面積速度一定の法則)の説明は、本記事の範囲を越え
るものですので、ウィキペディアなどで各自ご確認ください。
ここでは、具体的な各中気の間隔を示すだけにととどめます。
※ウィキペディア https://ja.wikipedia.org/wiki/ケプラーの法則
【各中気と次の中気の間隔日数】
<中気名> <間隔> <間隔-平均朔望>
正月中気 29.96 ( 0.43)
二月中気 30.46 ( 0.93)
三月中気 30.96 ( 1.43)
四月中気 31.33 ( 1.80)
五月中気 31.42 ( 1.89)
六月中気 31.33 ( 1.80)
七月中気 30.88 ( 1.34)
八月中気 30.42 ( 0.89)
九月中気 29.92 ( 0.39)
十月中気 29.54 ( 0.01)
十一月中気 29.46 (-0.07)
十二月中気 29.58 ( 0.05)
※間隔-平均朔望
中気の間隔から平均朔望月の日数(29.53日)を差し引いた日数。
データ行の末の()は、中気の間隔と平均朔望月の日数の差です。平均朔望月
は月の満ち欠けの周期(新月から新月までの周期)の平均値で、これは旧暦
月の日数の平均値ともいえます。この()の数値が大きい中気と中気の間で、
閏月が生まれやすいことになります。
御覧のとおり、遠日点の頃の中気である五月中気(夏至)で間隔がもっとも
広く、近日点の頃の中気である十一月中気(冬至)で間隔がもっとも狭くな
っているのが解ります。
ということで、ようやくですが
旧暦の「夏」は長い
理由まで説明することが出来ました。
ああ、長かった・・・。
◇おまけ
旧暦の暦月名の決定方法と、閏月の生まれる仕組みは昔から変わっていない
のですが、二十四節気(もちろんこれに含まれる「中気」も)の計算方式と
して、太陽の黄道上の位置によって決定する定気法が採用されたのは、1844
年の天保十五年(弘化元年)の天保暦からです。
それ以前には、現在のような極端な閏月の出現時期の不均一はありませんで
した。この点から考えると、天保暦での定気法採用は失敗だったんじゃない
かなと、かわうそ@暦は考えています。
日刊☆こよみのページ スクラップブック