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■「海といえば山」で「山の日」?
 今日は、祝日。言わずと知れた「山の日」です。
 (案外、言わないとわからないかも・・・)

 祝日としての「山の日」のスタートは2016年。
 今年はスタートから10回目です。

 ただし、2020年、2021年は2回目の東京オリンピック開催の都合で8月11日か
 ら移動させられたので、8月11日としては8回目となります。

◇祝日「山の日」とは
 国民の祝日に関する法律(いわゆる「祝日法」)の条文によるとこの祝日の
 内容は

  「山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝する」

 です。
 フーム、祝日法の文言、どこかで読んだことが・・・。

  「自然に親しむとともにその恩恵に感謝し豊かな心をはぐくむ」
  「海の恩恵に感謝するとともに、海洋国日本の繁栄を願う」

 ありました。いずれも祝日法の条文にある祝日の内容です。
 前者は「みどりの日」、後者は「海の日」の祝日の。

 似ている。みどりの日の言葉の「自然」を「山」に置き換えたら、あるいは
 海の日の「海の恩恵」を「山の恩恵」に置き換えたら、ほとんどそのままじ
 ゃないですか?

 考えてみると、「みどりの日」も「海の日」も、そして「山の日」も特定の
 出来事の日付に結び付いた祝日ではなく、なんとなく曖昧模糊とした祝日で
 す。この日じゃないといけないという、確たる意味が無いために、祝日の意
 味もこんな漠然とした書き方になってしまうのでしょう。
 そんなことを考えるのは意地悪な性格の私だからでしょうかね?

◇夏の、お盆ウィーク?
 日付に特別な意味のなさそうな祝日として、失礼なことに「みどりの日」と
 「海の日」の名前を出してしまいましたが、それでも「みどりの日」は昭和
 天皇の誕生日を祝った祝日として生まれたという経緯がありますし、「海の
 日」だって

  明治9年に明治天皇が東北地方巡幸の帰途、灯台視察船「明治丸」に乗っ
  て、横浜港に帰還した日

 を記念した海の記念日を祝日化したものなので、意味合いは弱いながらも日
 付にまったく意味がないというものでもありません。

 ※現在「海の日」は移動祝日
  「海の日」は、いわゆるハッピーマンデー法によって2023年からは7月第3
  日曜日という日付けが年によって変化する移動祝日となっています。

 「みどりの日」や「海の日」には明確とまではいえませんが、日付けにそれ
 なりの意味がありました。では日付はいったいどこから?
 いろいろ調べてみても残念ながらその日付については、根拠といえるものが
 見つかりません。根拠らしいものがないのに、なぜ8月11日になったのでし
 ょうね?

 ここからは、かわうその推測です。

 ・祝日のない8月に祝日を作りたい?
  「山の日」が生まれた2016年当時、1年の12ヶ月のうち、6月と8月だけ、
  祝日がありませんでした(現在は12月も祝日のない月)から、8月にも祝
  日を作りたかったのでしょう。

  ここで6月ではなく8月が選ばれたのは、8月は学校の夏休みの月だったか
  でしょう。8月に祝日をつくり、連休が出来れば家族旅行などもしやすく
  なり、経済効果が生まれるだろうと見込んだわけです。

 ・非公式の大型連休を作りたい?
  「山の日」は8月11日という日付けに固定された祝日です。
  もし先の推測にあったように「連休化」を狙うのであれば、「海の日」の
  ように、移動祝日化すればよかったのに、なぜ日付が固定されたのでしょ
  うか?

  そこで考えられるのが、8月にある非公式な連休、「お盆」の存在です。
  お盆は本来は7月13~15日(ないしは16日)という日付に行われる盂蘭盆
  の行事ですが、現在は「月遅れの盆」と称する新暦の8月13~15日(ない
  しは16日)の行事として定着した感があり、この期間は事実上の連休のよ
  うに扱われています。

  皆さんの職場でも「お盆休みはどうするの?」といった会話が普通に行わ
  れているのではないでしょうか。この事実上の連休に祝日1日を追加して
  さらなる大型連休化を狙ったのでは?

 ・移動祝日でなく、固定の日付としたのか?
  祝日を利用して連休化するといえば、祝日のいくつかを移動祝日としたハ
  ッピーマンデー法が思い浮かびますが、「山の日」はこの悪法(だと私は
  思っている)の洗礼を受けず、固定した日付けの祝日となりました。なぜ
  でしょうね?

  それは、連休化しようとした行事が曜日と無関係な「お盆」だったからで
  はないでしょうか。ハッピーマンデー法は、祝日を月曜日にすることで、
  土~月曜の3連休を作ろうとした法律ですが、お盆は日付けに固定された
  行事なので、これと続けて大型連休とするためには、日付けは固定の祝日
  の方が都合がよかったのだと考えられます。

 ・なぜ「山の日」?
  お盆とつなげて大型連休を作り出したいというのであれば、

   「お盆の日」とか「お盆準備の日」

  でもよいかも知れませんが、お盆というと仏教行事としての性格が強く、
  政教分離の建前から「お盆の日」はまずかろう・・・では何がいいか?

  暑い夏には、海や山で避暑!
  そして、7月には「海の日」が既にある。
  「海」といえば「山」、「海の日」があるなら「山の日」だよね!
  ということで、この名前に落ち着いたのでしょう。

 ・なぜ8月12日じゃなくて8月11日?
  現在、お盆といえば8月13~15日が一般的ですから、これとつなげて大型
  連休化しようとしたら8月12日とすればよさそうなものです。実は国会で
  「山の日」制定の審議では、当初の案は8月12日だったのです。それが、
  審議が進む過程で、8月11日に変更されました。それも結構、唐突に。

  この変更の理由について、明示した資料は私には見つけられなかったので
  すが、変更の理由として思い浮かぶものがありました。それは「日航ジャ
  ンボ機墜落事件」です。

  日航ジャンボ機墜落事件は1985年8月12日に発生した日航ジャンボ機 123
  便の墜落事故で、520名もの死者を出した世界史上最悪の航空機事故とい
  われる大事故です。

  日航ジャンボ機 123便が墜落したのは群馬県の高天原山、御巣鷹の尾根で
  事故の起きた8月12日には毎年、犠牲者を悼む慰霊登山が行われていたの
  でした。

  きっと「山の日」審議中にこの事実に誰かが気がついたのでしょう。そし
  て、この日を「山の日」として祝うというのはちょっとな・・・というこ
  とで急遽11日に変更したのじゃないかと考えています(この推測は当たっ
  ていると思います)。

 こうした経緯を経て、8月11日の「山の日」という祝日が生まれたという、
 かわうその推測です。いかがでしょう?

 「お盆の大型連休化の為に祝日を作ろう。
  でも『お盆の日』という名前はつかえないので、『海の日』から連想した
  当たり障りのない『山の日』という名前にしよう。
  それと、山で大事故があった日を避けるため、日付けを1日ずらすことに
  しよう・・・」

 こう書いてみると、なんだか可哀想に思えてくる「山の日」という祝日。
 せめて最後は、祝日法に書かれたこの祝日の意義

  山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝する日

 を思い出して、山の恩恵に感謝しつつ、本日の暦のこぼれ話を終えることに
 します。この法律条文が「建前の言葉」なのだろうなと思いつつ・・・。

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