暦と天文の雑学
http://koyomi8.com/reki_doc/doc_0761.html
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針供養とは
針供養は折れたり曲がったりして使えなくなった針を集め、供養する行事で、2月8日または12月8日、あるいはその両方の日に行われています。
針供養は江戸時代後期から明治時代に拡がった行事です。拡がった時期からすると伝統行事の中では比較的新しい行事と言えるかも知れません。
この日には普段針仕事で使っている針を休めるために針には触れずに過ごすため、針仕事を休みます。また、この一年の間に曲がったり折れたりして使えなくなった古い針を豆腐や蒟蒻などの軟らかい物に刺して休ませて神棚に供えたり、寺や神社に納めて供養するとともに、今後ますます針仕事が上達しますようにと祈る行事です。神棚に供えられたり、寺や神社に納められたりした古針は最後には塩をかけて土に還します(川や海に流すところもあります)。針供養を行う寺や神社には、針供養塚などが作られていることもあります。
◇針供養と少彦名命
針供養が行われる神社としては淡島神社が有名です。殊に有名なのは全国の淡島神社、粟島神社、淡路神社の総本社である和歌山県の淡島神社(http://www.kada.jp/awashima/)です。淡島神社の祭神は少彦名命(すくなひこなのみこと)で、常世の国から渡来し、大国主命(おおくにぬしのみこと)の国造りに協力したとされる神様です(淡島神社には大国主命も祭られています)。
少彦名命は小さいけれど知恵と技術のある神様で、医療や技術、芸事の神様です。もちろん裁縫技術の守り神でもありますので、針仕事の上達を願う人々にはうってつけ(そんな言い方したら罰が当たるかな?)の神社と言うことが出来ますね。
◇針供養と事八日
針供養の行われる日は2月8日と12月8日。この両日はまた「事八日」とか「八日節供」と呼ばれる一年の節目の日。正月という「ハレ」の期間と、農事を主とする「ケ」の期間を分ける節日でした。なお、この事八日については、
事八日と「事始め」「事納め」のはなし
http://koyomi8.com/reki_doc/doc_0760.htm
を書いておりますので、お時間があればこちらもお読みいただければ嬉しいです。
最後に推測ですが、元々は農事の仕事始めという性格の行事であった事始めが江戸時代という本格的な都市を生み出した時代になって、農事と直接かかわらない大量の都市生活者が生み出された時に、農事に代わるより普遍的な生活サイクルの象徴として「裁縫」が採り上げられ、事始め、事納めの対象として結びついたのがこの針供養の始まりではないでしょうか。事八日のような節日は、古くは物忌みの日でした。物忌みの行事の中には、普段使う特定の道具の使用を禁ずるというものがあるのですが、針仕事を休み針を休めるという針供養の日は、実は針を使うことを禁じられた物忌み日だったのかも知れません。確証はない、私の推測でしかありませんけれど。
◇針供養のあれやこれや
針供養の日に行われる行事は地域にいろいろです。
富山県や石川県ではこの日は「針歳暮(はりせいぼ)」とよばれて、針仕事を生業としている人たちが仕事を休んで饅頭や大福を食べたり知人に贈ったりしたそうです。甘いもの好きの私なので、ついつい「饅頭や大福」に反応してしまいました。
また、日本海沿岸では針供養の日には「八日吹き」と呼ばれる風が吹き、フグの仲間のハリセンボンが海岸に吹き寄せられると言われているそうです。なんでもハリセンボンは竜宮の乙姫様の針を盗んだからこんな目に遭うのだとか。そういえば、竜宮城が登場する浦島太郎の物語の原型は丹後風土記にあったとのことなので、だとすると竜宮城は日本海にあったように思えます。だからでしょうかね、こんな伝承ができたのは? ハリセンボンには迷惑な言いがかりだと思うのですが。
兵庫県の一部では、針供養の日に豆腐・油揚げの汁と小豆飯を食べると、これまでついた嘘が皆帳消しになるなんていう言い伝えがあったとか。
「嘘ついたら針千本(ハリセンボン)呑ます!」
が帳消しになるってことでしょうかね? いっそのことお汁には「ハリセンボンのヒレを入れる」とかあったら、もっと笑えたかも(いつまで続くハリセンボンの受難?)。おっと、最後のハリセンボンの話は、私の妄想の話でした。ごめんなさい。
初出 2022/02/10
針供養は江戸時代後期から明治時代に拡がった行事です。拡がった時期からすると伝統行事の中では比較的新しい行事と言えるかも知れません。
この日には普段針仕事で使っている針を休めるために針には触れずに過ごすため、針仕事を休みます。また、この一年の間に曲がったり折れたりして使えなくなった古い針を豆腐や蒟蒻などの軟らかい物に刺して休ませて神棚に供えたり、寺や神社に納めて供養するとともに、今後ますます針仕事が上達しますようにと祈る行事です。神棚に供えられたり、寺や神社に納められたりした古針は最後には塩をかけて土に還します(川や海に流すところもあります)。針供養を行う寺や神社には、針供養塚などが作られていることもあります。
◇針供養と少彦名命
針供養が行われる神社としては淡島神社が有名です。殊に有名なのは全国の淡島神社、粟島神社、淡路神社の総本社である和歌山県の淡島神社(http://www.kada.jp/awashima/)です。淡島神社の祭神は少彦名命(すくなひこなのみこと)で、常世の国から渡来し、大国主命(おおくにぬしのみこと)の国造りに協力したとされる神様です(淡島神社には大国主命も祭られています)。
少彦名命は小さいけれど知恵と技術のある神様で、医療や技術、芸事の神様です。もちろん裁縫技術の守り神でもありますので、針仕事の上達を願う人々にはうってつけ(そんな言い方したら罰が当たるかな?)の神社と言うことが出来ますね。
◇針供養と事八日
針供養の行われる日は2月8日と12月8日。この両日はまた「事八日」とか「八日節供」と呼ばれる一年の節目の日。正月という「ハレ」の期間と、農事を主とする「ケ」の期間を分ける節日でした。なお、この事八日については、
事八日と「事始め」「事納め」のはなし
http://koyomi8.com/reki_doc/doc_0760.htm
を書いておりますので、お時間があればこちらもお読みいただければ嬉しいです。
最後に推測ですが、元々は農事の仕事始めという性格の行事であった事始めが江戸時代という本格的な都市を生み出した時代になって、農事と直接かかわらない大量の都市生活者が生み出された時に、農事に代わるより普遍的な生活サイクルの象徴として「裁縫」が採り上げられ、事始め、事納めの対象として結びついたのがこの針供養の始まりではないでしょうか。事八日のような節日は、古くは物忌みの日でした。物忌みの行事の中には、普段使う特定の道具の使用を禁ずるというものがあるのですが、針仕事を休み針を休めるという針供養の日は、実は針を使うことを禁じられた物忌み日だったのかも知れません。確証はない、私の推測でしかありませんけれど。
◇針供養のあれやこれや
針供養の日に行われる行事は地域にいろいろです。
富山県や石川県ではこの日は「針歳暮(はりせいぼ)」とよばれて、針仕事を生業としている人たちが仕事を休んで饅頭や大福を食べたり知人に贈ったりしたそうです。甘いもの好きの私なので、ついつい「饅頭や大福」に反応してしまいました。
また、日本海沿岸では針供養の日には「八日吹き」と呼ばれる風が吹き、フグの仲間のハリセンボンが海岸に吹き寄せられると言われているそうです。なんでもハリセンボンは竜宮の乙姫様の針を盗んだからこんな目に遭うのだとか。そういえば、竜宮城が登場する浦島太郎の物語の原型は丹後風土記にあったとのことなので、だとすると竜宮城は日本海にあったように思えます。だからでしょうかね、こんな伝承ができたのは? ハリセンボンには迷惑な言いがかりだと思うのですが。
兵庫県の一部では、針供養の日に豆腐・油揚げの汁と小豆飯を食べると、これまでついた嘘が皆帳消しになるなんていう言い伝えがあったとか。
「嘘ついたら針千本(ハリセンボン)呑ます!」
が帳消しになるってことでしょうかね? いっそのことお汁には「ハリセンボンのヒレを入れる」とかあったら、もっと笑えたかも(いつまで続くハリセンボンの受難?)。おっと、最後のハリセンボンの話は、私の妄想の話でした。ごめんなさい。
- 余 談
- 少彦名命の神
- 淡島神社の祭神として登場した少彦名命。ガガイモの実の船に乗って日本にやってきて、草の茎に載って遊んでいたら、弾かれて日本を去ってしまったとか。登場の仕方、退場の仕方がいいですね。また、知恵の神様でありながら、悪戯好きの悪童のような面もある小さな神様。なんだか好きです。
- 掲載のタイミング・・・
- 2月8日に事八日の話を書き始めたのですが、長くなりすぎたので針供養の部分を切り離して「事八日」と「針供養の日」の二つに分けました。その後ろの部分がこの話。2月8日当日に書き始めるという計画性のなさの御蔭で、書き上がったのは針供養の日が終わって2日後の2月10日。年中行事ですから次回のためにと思えば、無駄にはなりませんね。ぼやいてないで、さっさとアップすることにいたします。
初出 2022/02/10
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