暦と天文の雑学
http://koyomi8.com/reki_doc/doc_0824.html
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月より団子?・・・月見団子の話
今年も中秋の名月の日が近づいて来ました。
毎年この日が近づくと「お月様」の話をあちこちで聞くことが出来ます。きっと皆さんもすでに、いろいろなお月見の話を聞いたり、読んだりしているでしょう。こよみのページの暦と天文の雑学にも
◇月見団子のルーツは芋?
十五夜(中秋の名月)には、月が見える縁側や窓辺に机を置き、戸を開け放って、机の上には薄(ススキ)を飾り、里芋や季節の野菜、果物、そして山盛りにした月見団子を供えします。
今ではお月見のお供え物といえば、団子が真っ先に浮かぶほど一般化した月見団子ですが、これが定着したのは意外に遅く、江戸時代も後期に入った頃だと言うことです。ではそれ以前は何をお供えしていたのかというと、それは芋。中秋の名月といえば芋を煮て食べたようで、このために中秋の名月は「芋名月(いもめいげつ)」とも呼ばれます。この日に食べられた芋はもっぱら里芋です。
現在でも中秋の名月に煮た里芋を供える風習は、あちこちに残っています。このときの芋の煮方ですが、皮をつけたまま茹でて、食べるときにその皮をつるりと剥いて塩などつけるところや、半分だけ皮を残して茹でる衣被(きぬかつぎ)にするところ、最初から皮を剥いて醤油などで煮転がして食べるところなど、様々あるようです。
十五夜の月見は、秋の収穫を祝いこれを月に感謝する行事だったといわれており、お月様に供えられる団子(米の粉から作る)や芋、果実などはみな、秋の収穫物です。ことに芋は、稲作が拡がる前には、主要な食物であったことから、今でもお供え物の主役級の扱いを受けているのでしょう。
◇団子の形
江戸後期の江戸、京都、大阪の三都の風俗について記録した守貞謾稿に、江戸と京阪の月見団子の形についての記述と図が載っています。それによると、江戸の団子は正丸で、京坂(京阪)の団子は小芋の形にとがらすとあります(右の図のごとし)。
さらに「しかも豆粉に砂糖を加へ、これを衣とし」と解説は続きますから、その団子の姿はまるで半分だけ皮を残して茹でた衣被のようじゃありませんか。
江戸の団子の「正丸」は家族円満を表す円形だともいいますが、それより単純にまん丸な十五夜のお月様のイメージでは? 一方、関西(京阪)の団子は、古くからの供え物であった里芋の姿を映したもののようです。
あと、ちょっと変わったところでは、静岡県の「ヘソ団子」。丸くて平べったい餅を作りさらにその真ん中をちょっとくぼませた、ヘソのあるような形の団子。この形の意味は・・・すみません、誰か教えてください。
さらにさらに変わり種(?)としては、最中(もなか)を供えるというところもあります。これは「中秋」は「秋の真ん中」であるということで、「最中」をお供えするのだとか。なぞなぞの世界ですね(形の違いのはずが、お菓子の種類がちがってしまいました。これは失礼)。
◇団子の数
月見団子は、三方や皿に山盛りにされて供えられるものですが、山盛りにされるその数は所によって
a.15個
b.12または13個
の二つに分かれます。もちろん、どうしてもこの二つでないといけないいうわけではありませんし、それ以外の数(例えば5個とか)というところもありますが、15個型と12個(または13個)型が大半を占めているようです。地域的な分布で見ると15個型は関東に多く、12個型は関西に多いようです。
この月見団子の数の理由ですが、15個型はおそらく「十五夜」の15なのでしょう。では、12個または13個という数はどこから来ていると思いますか? ヒントとしては、閏月のある年は13個、それ以外の年は12個を供えるのだといわれること。お解りになりましたね、お月見をする年の暦月(閏月の有無を問題にしているので当然、旧暦の暦月)の数ということです。これを書いているのは2017年ですが、この考えからするとこの年の団子は13個となります(閏五月がありましたので1年は13ヶ月)。
◇月見団子は巨大だった?
形、数の次は大きさの話です。
現在の月見団子は、食べやすいサイズのものがお供え物としても使われるのですが、昔はお供え物の団子はかなり巨大だったようです。「江戸府中絵本風俗往来」という本によると、
「団子は大きさ径(わたり)三寸五分より小さきは二寸余りとなす」
とあります。一寸といえばおよそ3cm、径三寸五分といえば直径10cm超。「小さきは二寸余り」だって、直径6cm。ちょっと食べるサイズではなさそうです(食べるための小団子はまた別に作ったようなのでご安心を)。
今でも、お供え用の月見団子は一升の米をひいた粉で作るという地方もありますから、大げさな話ではないようです。それにしても直径10cm越えの団子って、団子というイメージじゃありませんね。
◇月見団子と団子盗人
月見団子に関する面白い習俗としては、各地に
「よその家の月見団子を盗んで食べてもよい」
というものがあります。地域の子供達が家々を巡って垣根の隙間から竹竿をさし入れて団子を突き刺して盗んでいくというような行事が日本のあちこちに残っています。
こうした行事は神(月)への供え物のお下がりをみんなで食べるという祭りにはつきものの直会(なおらい)行事の変形と考えることが出来るでしょう。ところによっては、団子盗を許すどころか歓迎するというところもあります。これなどは、収穫に感謝するとともに次の年の豊作を祈念する月見の供え物が無くなってゆくということは、お月様が供え物を受け取てくれたということ、つまり願いが届いた証だと考えられるからです。
団子盗人の子供達は、この夜ばかりはお月様の化身というわけです。もっとも現在の家の造り、防犯上の問題などからこの行事の実行は難しくなっています。仕方ないことですが、ちょっと寂しい気もします。
◇月見団子の禁忌
「他所の家の月見団子を盗んで食べてもよい」という風習の裏返しの禁忌もあります。それは、自分の家の月見団子を食べてはならないというもの。栃木県の大平町では「月見の供え物をその家の未婚者が食べると国廻りする」と言って食べさせてはならないという言い伝えがあるそうです。他所の家の月見団子を食べてよいというのは、自分の家の団子を食べてはならないという禁忌があったからかもしれません(鶏と卵の関係みたいですね)。
本日は月見団子についてのあれやこれやを書いてみました。日付の話が一つも無いのは「暦と天文の雑学」的にはどうだろうとも思いましたが、年中行事についての話ですから許してください。この記事を読んで、
我が家の月見団子は、どのタイプかな?
と考えてくれる方がいらっしゃってくれるならうれしいですね。いらっしゃるかな?
初出 2017/10/03
今年も中秋の名月の日が近づいて来ました。
毎年この日が近づくと「お月様」の話をあちこちで聞くことが出来ます。きっと皆さんもすでに、いろいろなお月見の話を聞いたり、読んだりしているでしょう。こよみのページの暦と天文の雑学にも
中秋の名月と関係する記事、いろいろ
と沢山のお月様の話がありますが、本日はちょっと目先を変えて、お月様にお供えされる団子の話をすることにします。しばし、お付き合いのほどを。◇月見団子のルーツは芋?
十五夜(中秋の名月)には、月が見える縁側や窓辺に机を置き、戸を開け放って、机の上には薄(ススキ)を飾り、里芋や季節の野菜、果物、そして山盛りにした月見団子を供えします。
今ではお月見のお供え物といえば、団子が真っ先に浮かぶほど一般化した月見団子ですが、これが定着したのは意外に遅く、江戸時代も後期に入った頃だと言うことです。ではそれ以前は何をお供えしていたのかというと、それは芋。中秋の名月といえば芋を煮て食べたようで、このために中秋の名月は「芋名月(いもめいげつ)」とも呼ばれます。この日に食べられた芋はもっぱら里芋です。
現在でも中秋の名月に煮た里芋を供える風習は、あちこちに残っています。このときの芋の煮方ですが、皮をつけたまま茹でて、食べるときにその皮をつるりと剥いて塩などつけるところや、半分だけ皮を残して茹でる衣被(きぬかつぎ)にするところ、最初から皮を剥いて醤油などで煮転がして食べるところなど、様々あるようです。
十五夜の月見は、秋の収穫を祝いこれを月に感謝する行事だったといわれており、お月様に供えられる団子(米の粉から作る)や芋、果実などはみな、秋の収穫物です。ことに芋は、稲作が拡がる前には、主要な食物であったことから、今でもお供え物の主役級の扱いを受けているのでしょう。
◇団子の形
江戸後期の江戸、京都、大阪の三都の風俗について記録した守貞謾稿に、江戸と京阪の月見団子の形についての記述と図が載っています。それによると、江戸の団子は正丸で、京坂(京阪)の団子は小芋の形にとがらすとあります(右の図のごとし)。
さらに「しかも豆粉に砂糖を加へ、これを衣とし」と解説は続きますから、その団子の姿はまるで半分だけ皮を残して茹でた衣被のようじゃありませんか。
江戸の団子の「正丸」は家族円満を表す円形だともいいますが、それより単純にまん丸な十五夜のお月様のイメージでは? 一方、関西(京阪)の団子は、古くからの供え物であった里芋の姿を映したもののようです。
あと、ちょっと変わったところでは、静岡県の「ヘソ団子」。丸くて平べったい餅を作りさらにその真ん中をちょっとくぼませた、ヘソのあるような形の団子。この形の意味は・・・すみません、誰か教えてください。
さらにさらに変わり種(?)としては、最中(もなか)を供えるというところもあります。これは「中秋」は「秋の真ん中」であるということで、「最中」をお供えするのだとか。なぞなぞの世界ですね(形の違いのはずが、お菓子の種類がちがってしまいました。これは失礼)。
◇団子の数
月見団子は、三方や皿に山盛りにされて供えられるものですが、山盛りにされるその数は所によって
a.15個
b.12または13個
の二つに分かれます。もちろん、どうしてもこの二つでないといけないいうわけではありませんし、それ以外の数(例えば5個とか)というところもありますが、15個型と12個(または13個)型が大半を占めているようです。地域的な分布で見ると15個型は関東に多く、12個型は関西に多いようです。
この月見団子の数の理由ですが、15個型はおそらく「十五夜」の15なのでしょう。では、12個または13個という数はどこから来ていると思いますか? ヒントとしては、閏月のある年は13個、それ以外の年は12個を供えるのだといわれること。お解りになりましたね、お月見をする年の暦月(閏月の有無を問題にしているので当然、旧暦の暦月)の数ということです。これを書いているのは2017年ですが、この考えからするとこの年の団子は13個となります(閏五月がありましたので1年は13ヶ月)。
◇月見団子は巨大だった?
形、数の次は大きさの話です。
現在の月見団子は、食べやすいサイズのものがお供え物としても使われるのですが、昔はお供え物の団子はかなり巨大だったようです。「江戸府中絵本風俗往来」という本によると、
「団子は大きさ径(わたり)三寸五分より小さきは二寸余りとなす」
とあります。一寸といえばおよそ3cm、径三寸五分といえば直径10cm超。「小さきは二寸余り」だって、直径6cm。ちょっと食べるサイズではなさそうです(食べるための小団子はまた別に作ったようなのでご安心を)。
今でも、お供え用の月見団子は一升の米をひいた粉で作るという地方もありますから、大げさな話ではないようです。それにしても直径10cm越えの団子って、団子というイメージじゃありませんね。
◇月見団子と団子盗人
月見団子に関する面白い習俗としては、各地に
「よその家の月見団子を盗んで食べてもよい」
というものがあります。地域の子供達が家々を巡って垣根の隙間から竹竿をさし入れて団子を突き刺して盗んでいくというような行事が日本のあちこちに残っています。
こうした行事は神(月)への供え物のお下がりをみんなで食べるという祭りにはつきものの直会(なおらい)行事の変形と考えることが出来るでしょう。ところによっては、団子盗を許すどころか歓迎するというところもあります。これなどは、収穫に感謝するとともに次の年の豊作を祈念する月見の供え物が無くなってゆくということは、お月様が供え物を受け取てくれたということ、つまり願いが届いた証だと考えられるからです。
団子盗人の子供達は、この夜ばかりはお月様の化身というわけです。もっとも現在の家の造り、防犯上の問題などからこの行事の実行は難しくなっています。仕方ないことですが、ちょっと寂しい気もします。
◇月見団子の禁忌
「他所の家の月見団子を盗んで食べてもよい」という風習の裏返しの禁忌もあります。それは、自分の家の月見団子を食べてはならないというもの。栃木県の大平町では「月見の供え物をその家の未婚者が食べると国廻りする」と言って食べさせてはならないという言い伝えがあるそうです。他所の家の月見団子を食べてよいというのは、自分の家の団子を食べてはならないという禁忌があったからかもしれません(鶏と卵の関係みたいですね)。
本日は月見団子についてのあれやこれやを書いてみました。日付の話が一つも無いのは「暦と天文の雑学」的にはどうだろうとも思いましたが、年中行事についての話ですから許してください。この記事を読んで、
我が家の月見団子は、どのタイプかな?
と考えてくれる方がいらっしゃってくれるならうれしいですね。いらっしゃるかな?
- 余 談
- 丸い団子と小芋型の団子
- 今回は、月見団子にまつわるあれやこれやについて書いてみました。その中には地方による月見団子の話もあったのですが、最近はとある事情で、「丸形の団子」が主流となってきています。
その理由とは、
量産に適している
ということ。
関西風の小芋をかたどった団子は作るのにそれなりの手間がかかるということで、大量に作るにはやや不向き。そのため、販売される団子には大量生産に向いた関東風の正丸の団子が増えています。
ただ、昨今は大量生産大量消費という流れから、付加価値の少量生産品の価値が高まってきているので、手間のかかる小芋型の団子も復活してくるか? どうでしょうね。
これからの時代の変化(団子の形の変化?)が、気になりますね~~。あ、お月見の夜が晴れるかどうか、それももちろん気になりますけどね。
初出 2017/10/03
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