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八十八夜
  
茶の木
お茶の木・お茶の葉
  夏も近づく八十八夜
  野にも山にも若葉が茂る
  あれに見えるは茶摘みじゃないか
  茜襷に菅の笠

不思議によく覚えている唱歌である。
てっきり曲名を「八十八夜」だと思っていたのは私だけではないだろう(正しくは「茶摘」である)。それだけ八十八夜という言葉の印象が強烈だ。

八十八夜は、暦の上では「雑節」と言われるものの一つだ。
立春の日から数えて88日目の日。
立春は 2/4頃であるから、指折り数えると・・・大変だけど閏年だと5/1、平年だと5/2頃がこれに当たる。
(指折り数えるのが大変な場合は、「日付の電卓」を使うという手もある。宣伝だった)

暦の上にある、二十四節気七十二候は中国生まれであるが、八十八夜は日本生まれ。中国の暦には無いものであったが、日本での実生活上の必要性から記載されるようになった日本生まれの言葉である。
日本の正式な暦に八十八夜が記載されるようになったのは、渋川春海による貞享の改暦(1684年)からだといわれる。もっともすでに伊勢暦などにはその記載が有ったというので、八十八夜という言葉はそれ以前から存在していたことがわかる。

八十八夜の日の時期に摘まれた茶葉から作られた「茶」が特に上等で美味しいと言われる。いわば茶の旬である。茶摘みも盛んに行われ、その情景が歌に唱われたわけだ。

●季節点としての八十八夜の役割

「八十八夜の別れ霜」という言葉がある。

八十八夜が暦に書かれるようになったのは、この言葉に表される季節の移り変わりの「目印」(こういう目印を「季節点」というそうだ)としての役割からである。
農家にとって遅霜は恐ろしい。育ち始めた作物の若い芽、若い葉に霜が降りて作物がだめになってしまってはそれまでの苦労、その後の1年の収穫が台無しである。
春も終盤となって、もう大丈夫だろうと油断していると危ないよと言った一種の警告。見方を変えると、八十八夜を過ぎれば、そろそろ霜の心配をしなくてもよい時期だよと言うことでもあるか。

遅霜の月日
(CD-ROM版理科年表2000)
場所平均
月日
最遅記録統計
開始年
京 都4/091928/5/191882
大 阪3/191940/5/061911
名古屋3/291902/5/131892
東 京3/131926/5/161877
那 覇*************1961
鹿児島3/111929/4/221916
福 岡3/211913/5/111891
高 知3/261947/4/231886
静 岡3/291956/4/301877
仙 台4/181928/5/201927
札 幌4/251908/6/281886

このおそれられた遅霜であるが、理科年表などで記録を調べてみると、左の表のようになる。

遅霜の平均の時期を見ると3月末ごろとなるが、もっとも遅い記録などを見ると、八十八夜以降の日付も多い。まあこのようなまさに「記録的」な遅霜は別とも言えるだろうから、そう考えれば八十八夜頃までは霜に注意しようと言う注意は妥当なところか。

ここでは霜との関係で取り上げたが、八十八夜は籾蒔きの時期や、苗の生育の目安となる時期としても重要な農業上の季節点とされた。
ちなみにこの八十八夜の3日後は、立夏。暦の上ではもう夏。
 「夏も近づく八十八夜」 なのである。

●「季節点」をなぜ立春の日付から数えるのか?
季節の移り変わりの目安として用いられる印を季節点というそうだ。
今回話題とした八十八夜もその一つ。
二十四節気や他の雑節もまた暦の上に書かれた季節点である。

 「八十八夜は、立春から数えて八十八日目の日」

というのは判る。

 「八十八夜の別れ霜」

も前の解説で示したとおり、遅霜の警戒時期の終わりを示す言葉としては妥当だということも判る。
さらに、八十八夜が現在の5/1か5/2に当たるというのも判る。
ならば、

 「五月朔日(ついたち)の別れ霜」

と言ったってよさそうに思うし、その方が覚えやすい気がする。なぜわざわざ「立春から数えた日数」で季節点を示す必要があったのだろうか?
八十八夜以外にも、立春から数えた日数で季節点として「二百十日」「二百二十日」などがあることから、八十八夜だけが特別なわけではない。
でも立春から八十八日目が何月何日になるかを瞬時に計算できる人は少ないと思うから、「覚えやすい」という理由でこういう呼び名が生まれたとは思えない。

と八十八夜という言葉の成立した訳を考えてゆくと、「旧暦は季節によくあった暦だ」という世間の常識(?)が間違っていることがわかってくる。

新暦と旧暦で2017から 5年分の八十八夜の日付を示してみると

八十八夜の新暦と旧暦の日付
西暦年新暦旧暦
20175/24/07
20185/23/17
20195/23/28
20205/14/09
20215/23/21

新暦の日付は、ほとんど変わらないのに旧暦の日付は結構ずれるのが判る。新暦であれば先に書いたとおり、八十八夜の代わりに、「五月朔日の別れ霜」とも言えるが、旧暦だと日付に固定して言うことが出来ない。

季節の移り変わりは、主として「太陽の動き」に関係しますから、どうしたって「太陽暦」である新暦の方がよくあった暦なのだ。
旧暦では、この「季節の移り変わり」を日付によって表すことが難しいので、八十八夜などの太陽の動きに連動する季節点を暦上に書き込むことでこれを補ったのだ。

そういえば、江戸時代の歳時記などを読むと、
 「桜は、立春から五十四、五日後に咲き始める」
といった記述を目にすることがありますから、作物に限らず動植物の状況を示すのに立春(太陽の位置で決まる)からの日数を目安にすることは一般的なことだったようだ。

後日追記 2008/04/29
「なぜ八十八夜なのか」について、中山和久様より次のようなお便りを頂きました。
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 ご存知の通り、月の満ち欠けは約29.530589日周期ですから、立春の月の形を覚えておけば、3回目の同じ月の夜が88.591767夜となりますので、非常にカウントしやすかったのだと思います。
 小生も、なぜ「立夏の別れ霜」ではいけなかったのか不思議でしたが、あく
までも八十八日ではなく八十八夜なんですね。
 ----------

傾聴すべきご意見かと思います。
旧暦時代ですから、同じくらいの月が見えると言うことは、ほぼ同じ日付けということにもなります。試しに2007,2008,2009年の立春と八十八夜の日の月日を並べてみると、

 2007年 旧暦12/17と 3/16 (新暦 2/4と 5/2)
 2008年 旧暦12/28と 3/26 (新暦 2/4と 5/1)
 2009年 旧暦 1/10と 4/08 (新暦 2/4と 5/2)
 ※「立春日付と八十八夜の日付」の形で書きました。

日付だけ見ると1ないし2日ずれますが、これは88.59・・の端数分と、八十八夜が立春を0ではなくて、1と数え始めることからこうなります。

余 談
茶摘みは夜?
冒頭に書いた唱歌茶摘みから、「八十八夜」と「茶摘」の関係が特に気になったのだろう、次のような質問をされたことがある。

 「八十八夜の茶摘みとは、夜に行われていたんでしょうか?」

歌の最後に「茜襷に菅の笠」と有る。夜では月夜だって襷がけだとか菅の笠だとか細かなところは見分けにくいだろうし、ましてや襷の色までわかるはずがない。ということで、情景は、もちろん昼の情景。
それなのに、「八十八夜」とはこれいかに?

この場合の「夜」は「日」と同じ意味で使われている。「八十八夜」は「八十八日」と同義。
古代には、1日の始まりを日没としたと言われるが、日にちを数えるのに夜をもってするのはこの辺の名残かもしれないな。
 
八十八夜の別れ霜は、当日の朝? それとも夜?
八十八夜の別れ霜は、その前日夜から当日の朝にかけての霜か、
それとも、当日夜から翌日朝にかけての霜か

と尋ねられたことがある。
元々、「遅霜に注意しましょう」という目安だから、1日違うと間違いといった性質のものではないのだが、それはそれとしてここで使われる「夜」の意味に絞って考えれば、

 「当日の夜から、翌日の朝にかけて」

が正しいと思う。
先に書いたとおりここでの「夜」は「日」と同義で使われている「夜」だからだ。
例として思い浮かぶものは、「十五夜の月」。
ご存じの通りこの十五夜の月は旧暦の十五日の月。
この時期の月は、夕方に昇って朝方に沈むので、旧暦十四日に昇った月も十五日の朝に見ることが出来るが、

 次の十五夜には、月見でもしましょう

と言ったときに、十四日の夜から十五日の朝まで見えている月を眺めることだと考える人はいないだろう。あくまでも「十五日の夜に昇る月」が月見の対象だ。八十八夜の別れ霜もこれと同じことだ。
 
野良の「茶の木」
記事に使った写真の「茶」ですが、自宅の裏山に生えているお茶の木。
人間が植えたものだろうが、手入れされなくなって少なくとも十数年。野生化して元気で生きているお茶の木である。
野生というか、野良の茶の木かな?
※記事更新履歴
初出 2003
修正 2017/05/02 (「八十八夜の新暦と旧暦の日付」の表示期間を2017-2021に修正)
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